中国が台湾本島を封鎖し兵糧攻め?そんな作戦は不可能と断言できる訳

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「台湾有事」を煽るさまざまな言説に対し、中国の軍事力や台湾の地理的特徴を踏まえ、現実的に可能か否かを専門的な見地から検証する軍事アナリストの小川和久さん。先日掲載の「中国による「台湾の軍事的制圧」などほぼ不可能なワケ」で、「上陸作戦」が成功することなどあり得ない理由を述べたのに続き、今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、「台湾本島封鎖」が可能かを検証します。導き出されたのは、封鎖が可能かどうかどころか「封鎖作戦」自体が実行しようとも思わないほど荒唐無稽という結論でした。

※本記事は有料メルマガ『NEWSを疑え!』2021年12月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:小川和久(おがわ・かずひさ)
1945年12月、熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。著書は『フテンマ戦記』『アメリカ式 銃撃テロ対策ハンドブック』『日米同盟のリアリズム』『戦争が大嫌いな人のための正しく学ぶ安保法制』『危機管理の死角 狙われる企業、安全な企業』『日本人が知らない集団的自衛権』『中国の戦争力』『日本の「戦争力」』『日本は「国境」を守れるか』『危機と戦うテロ・災害・戦争にどう立ち向かうか』ほか多数。

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中国は台湾本島を封鎖できるか?

今週も台湾有事の話があちこちで話題になっていますが、これまでお話しした中国軍による台湾本土への上陸作戦がリアリティを欠いていたのと同じように、しばしば囁かれている台湾封鎖についても実現可能性について考えてみたいと思います。

語られてきた台湾封鎖のシナリオは、台湾への海上輸送路(シーレーン)について、中国海軍の艦艇が攻撃可能な態勢をとり、場合によっては機雷を敷設する。そして、台湾を出入りする貨物船やタンカーを中国の空母艦載機と中国空軍の戦闘機が威嚇し、台湾への補給路を断つ、つまり台湾を兵糧攻めにするというものです。

確かに中国は、約70隻の駆逐艦とフリゲートなどを保有していますし、「遼寧」「山東」などの空母の艦載機J-15約60機や空軍の近代的戦闘機(第4、第5世代)約900機もあります。稼働率の低さを差し引いても、台湾を孤立させるには十分な戦力のように思えます。

しかし、封鎖作戦は台湾と中国の間でのみ成り立つ訳ではありません。国境を接する日本との関係、そして日本と同盟関係にあり、日本列島に本国と同水準の軍事機能を置く米国との関係を視野に入れなければ、語ることはできないのです。

台湾のシーレーンを遮断しようとするとき、中国側は米国からの軍事的圧力にさらされながら封鎖戦力を展開しなければなりません。さらに、台湾本島北部には中国が艦艇や航空機など封鎖戦力を展開しにくい日本との国境が広がっています。

中国が台湾を封鎖しようとするとき、国境を接する日本としては「隣の家の火事」の火の粉が飛んでこないように、国境周辺に自衛隊を緊急展開することになります。日本を拠点とする米軍も共同行動をとるでしょう。

その場合、中国の水上艦艇は海上自衛隊と航空自衛隊、そして米軍の対艦戦闘能力の射程内に置かれますし、水上艦艇と潜水艦は世界有数の水準にある海上自衛隊の対潜水艦戦(ASW)のターゲットにされることになります。潜水艦などから機雷を敷設し始めたら、ただちに日米の潜水艦の攻撃にさらされるでしょうし、世界トップレベルの海上自衛隊の機雷掃海能力もあります。中国の空母艦載機と空軍機も戦闘空中哨戒(CAP)する航空自衛隊機の前に、海上封鎖を支援する行動をとることはできません。

かくして、台湾への補給は日本側の海域から続けられることになるのは自然の流れでしょう。中国が日米との全面戦争を覚悟しない限り、台湾への海上封鎖という無謀な作戦は成り立たないのです。

中国が艦艇と航空機で台湾を取り囲み、台湾を兵糧攻めにすることができるなんて、当の中国の軍部も不可能だとわかっているのですが、台湾本島への上陸作戦同様に封鎖も可能なように見せ、日米台を牽制しておくために、そのそぶりを見せていることは知っておくべきでしょう。(小川和久)

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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