だから遅々として進まない。日本のデジタル化を妨げている3つの要因

nkjm20211214
 

今年になってようやくデジタル庁なる役所が発足したものの、順調にデジタル化が進んでいるとは到底思えぬ日本社会。なぜ我が国は先進各国に比べここまで遅れを取ってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では「Windows95を設計した日本人」として知られる中島聡さんが、日本のデジタル化を妨げている3つの要因を挙げ各々について詳細に解説。その上で、デジタル化を進めるために今すぐ始めるべき3つのアクションを提示しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

世界の未来を予測するエンジニア・中島聡さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

 

デジタル庁に向けた提言

先週になって、日本のデジタル庁が「デジタル社会の実現に向けた『新重点計画』の策定に向けてのご意見」を募集していることに気がついたのですが、残念ながら期限を過ぎてしまっているし、そもそも質問項目が役に立ちません。私なりに言いたいことはたくさんあるので、一通りここに書いておくことにします。

日本でデジタル化が進んでいない原因は複数ある上に、それらが複雑に絡み合っているので分かりにくいし解決しにくいのが現状です。なので、まずは、それらを可能な限り独立した問題に分割し、それぞれに対して対策を施す必要があります。

日本社会のデジタル化を難しくしている問題は、大きく分けると以下の三つになります。

  • 解雇規制
  • 社会の新陳代謝不足
  • ITゼネコン

解雇規制

米国で急速にデジタル化が進んだのは、その方が、より良いサービスを安価に提供できるからです。特に重要なのは「安価に」という部分で、それまで人が行なっていた作業を自動化することにより、「人件費」を減らすことが出来るという意味です。

米国には、日本のような解雇規制がなく、社員でも必要に応じて解雇できるため、「自動化による人件費の削除」は、デジタル化を進める上で強い進化圧として働いたのです。

その流れは、パソコンが普及し始めた90年代から始まり、インターネットが普及した2000年以降は、急速にさまざまなもののデジタル化が進みました。

日本でも米国のように社会のデジタル化を進めることは、サービスの向上という意味でも国際競争力という意味でも、とても良いことですが、それによって職を失う人々が大量に出ることを無視して議論を進めることは出来ません。

もちろん、デジタル化によって新しく生まれる職もあるので、必ずしもトータルでマイナスになるとは限りませんが、少なくとも、一部の人たちにとって、デジタル化は「痛みを伴う改革」であることを忘れてはなりません。

日本では、解雇規制があるため正社員の解雇が事実上不可能ですが、小泉政権時代に派遣法が改定された以降、(解雇規制で守られている)正社員になれずに、派遣社員としてしか働けない人々が急速に増え、それが社会に格差を生み出してしまいました。

このままの状態でデジタル化を進めれば、最初に切られるのは、社会の弱者である派遣社員たちであり、それが一層の格差を産むことは確実です。

そう考えると、日本における社会のデジタル化は「派遣法の見直し」と「解雇規制の撤廃」とセットであるべきだと私は考えています。解雇規制の撤廃により、正社員と派遣社員の境を無くし、同時に「派遣労働」を禁止することにより、派遣会社による「中抜き」を排除し、賃金が100%労働者に渡るようにします。

解雇規制を撤廃すれば、「自動化による人件費の削除」がデジタル化を進める良い進化圧となり、それを加速することになります。

当然ですが、一時的には失業者が増えるし、社会が必要とする人材とのミスマッチも生じるでしょうから、手厚い社会保障と、再教育の機会を国が提供する必要があります。

生活保護を受ける権利がありながらも、実際に受けている人が極端に少ない日本の現状を考えれば、失業手当、生活保護、介護保険、国民年金を一つに統合した上で、申し込みや審査が不要なユニバーサル・ベーシック・インカムに移行することも真剣に考慮すべき時期に来ていると思います。

世界の未来を予測するエンジニア・中島聡さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • だから遅々として進まない。日本のデジタル化を妨げている3つの要因
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け