だから遅々として進まない。日本のデジタル化を妨げている3つの要因

 

社会の新陳代謝不足

日本でデジタル化が進まないもう一つの要因は、「社会の新陳代謝の遅さ」にあります。

競争の激しい米国では、旧態依然としたビジネスは生き残ることが出来ず、倒産、買収などにより、次々に淘汰されて行きます。

分かりやすい例がレンタカーのHertzです。Uberなどのシェアリング・サービスの台頭によりレンタカー業界全体が縮小する中、コロナ禍による旅行・出張の激減によりHertzは窮地に追い込まれ、2020年5月にChapter 11を申請しました。

Chapter 11とは、資金繰りが滞った会社が使う救済措置で、(会社にお金を貸している)債権者と会社の間で、返済期間の延長や借金の減額交渉をしている間だけ、一時的に会社の存続を可能にします。

Chapter 11を活用し、Hertzは、借金の減額、非上場化、$1 billionの資金調達、経営陣の刷新、再上場、ガソリン・ディーゼル車の売却、電気自動車(Tesla車)をレンタルする会社としてのリブランディングを行いました。

当然ですが、このプロセスは、旧経営陣、旧株主、旧債権者たちにとって大きな痛みを伴うプロセスでしたが、これによって、Hertzは、これまでとは全く違う、新しい会社として生まれ変わることが出来たのです。

日本には、東芝、NEC、富士通のように、それなりの売り上げはあるもの、従業員の高齢化と技術力・ブランド力・国際競争力の低下に悩む「ゾンビ企業」は数多くあります。米国であれば、とっくの昔に切り刻まれて、新しい会社として(もしくは、別の会社の一部として)生まれ変わっているはずです。

それが出来ない一番の理由は、日本特有の、「経営陣=取締役会」というコーポレート・ガバナンスの効かない体制にあり、その背後にある「会社は株主のもの、経営陣の役割は株主利益を最大化すること」という本来会社の経営陣が持つべき常識の欠如があります。

少し前に書いたように、「自分が天下りする予定の子会社にお金を流す」など、米国であれば「背任罪」に問われて当然の会社の私物化が、罪悪感もなく堂々と行われているのが、日本の大企業なのです。

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米国では、しばしば「fiduciary duty」という言葉が使われますが、これは、株主から経営を委託された経営陣が、私物化などせずに株主の利益を最大化することに専念する義務、のことを指します。これに違反することは重大な犯罪であり、会社の経営をするということは、その義務を負うことだということを、ちゃんと理解した上でしか経営者にはなれません。

「fiduciary duty」の訳語としては、忠実義務や注意義務などの言葉が使われますが、それを意識して働いている日本の経営者は皆無と言って良いと思います。

日本の法律や監視体制もここに関しては未整備で、経営陣による「fiduciary duty」にそむく行為は(「取引先の企業から金品を受け取る」などを極端な場合を除いて)野放し状態、つまり「やったほうが得」なのが現状です。

米国で、この手の「fiduciary duty」違反が起こらないのは、法律の整備や監視体制にもありますが、成功した人は、早々に、引退して悠々自適な生活を送ったり、投資家や慈善家となって活躍する、という文化がある面も否定出来ません。

私と同じ時期にMicrosoftで活躍した連中のほとんどは、既にMicrosoftを離れており、会社を立ち上げる、VC(ベンチャー・キャピタリスト)としてベンチャー企業を育てる、財団を作って慈善活動に専念するなど、第二・第三の人生を送っています。Microsoftの子会社に重役として天下るようなことは、根本的に出来ない仕組みになっているし、やりたがる人もいないのです。

急速なデジタル化は、いつまでも会社にしがみついていたい日本の経営者にとっては好ましいことではありません。「これまでのやり方」が変わってしまえば、自分たちの存在意義はなくなってしまうし、天下りしようとしていた子会社が不要になってしまう可能性すらあります。

つまり、コーポレートガバナンスの欠如を解消し、会社の経営陣が「fiduciary duty」を強く意識して働くようにしなければ、「デジタル化による効率化」など出来なくて当然なのです。

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