焦り隠せぬ安倍晋三元首相。掴みどころのない岸田首相に抱く不安の中身

 

安倍氏は総裁選で支援した高市早苗氏を幹事長にしたかったに違いない。茂木氏とは親しい間柄だが、茂木幹事長の誕生が岸田首相の派閥「宏池会」と平成研の“復縁”につながるのは嫌なのだ。

これまで平成研は安倍氏と共同歩調をとってきたが、これからは、どうなるのか。田中角栄氏と大平正芳氏の間柄がそうだったように、もともと平成研と宏池会は連携してきた歴史がある。宏池会、麻生派、平成研が手をつなげば、その分、安倍派の影響力は低下するのだ。

このところ、安倍氏があちこちで意気軒高に発言を続けている。

12月1日、台湾のシンクタンクが主催する会合にオンラインで参加していわく。「中国にどう自制を求めるべきか。台湾有事は日本有事、すなわち日米同盟の有事でもある。この点の認識を、北京の人々は、とりわけ習近平主席は断じて見誤るべきではない」。

12月9日の安倍派会合。北京冬季五輪に政府代表を派遣しない「外交的ボイコット」で米国に追随するべきかどうかについて。「ウイグルで起こっている人権状況については、政治的な日本政府のメッセージを出すことが求められている。日本の意思を示すときは近づいてきている」。

親中派の林外相を擁する岸田首相にプレッシャーをかけると同時に、党内、とりわけ右派に存在感を示したということか。

中国軍機が台湾の防空識別圏内を飛び回り、差し迫った危険として台湾有事が懸念されるおり、安倍氏らしい発言とはいえるのだが、やけに勇ましさが目立つのも気になるところだ。

しかし、こうした派手な言動のなかに、安倍氏の焦りのようなものを感じるのは筆者だけではあるまい。掴みどころのない岸田首相に抱く安倍氏の不安。その裏返しとはいえないだろうか。

どこから見ても、岸田氏は善人だ。委員会の総理席でヤジを飛ばすようなこともしないだろうし、人を敵味方に分けて、敵を徹底的に叩く安倍流の生き方とは無縁に見える。しかし、それだけに安倍氏にとっては不気味な面がある。いくらお人好しでも、いったん権力を握れば豹変するかもしれないのだ。

首相の座の禅譲をちらつかせながら、岸田氏を軽く扱ってきた安倍氏への怨念は心中深く沈殿しているかもしれない。

とりわけ、2019年参院選で、岸田派重鎮、溝手顕正候補の10倍もの資金1億5,000万円を、対立する河井陣営に配った安倍首相と党本部への不信感は、いまだ岸田首相と自民党広島県連に渦巻いている。

1億5,000万円については、河井夫妻による買収工作に使われたほか、一部を安倍氏がフトコロに入れたのではないかと勘繰る向きもある。また、日大事件で逮捕された医療法人「錦秀会」前理事長、籔本雅巳被告と親しいことから、安倍氏をめぐるカネの噂は絶えない。

もし安倍氏に何らかの心当たりがあるなら、岸田首相と反目し合うのは得策ではないだろう。特捜が有力政治家の捜査をするさい、検事総長の任命権を持つ総理の意向を無視できないからだ。

これまで岸田氏を軽んじるかのごとき仕打ちをしてきたことは、安倍氏の負い目になっているはずである。岸田首相は安倍氏の機嫌をそこないたくないだろうが、安倍氏もまた岸田首相の腹のうちが気になるに違いない。

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