大阪ビル放火で渦巻く「憎悪」や「怒り」。メディアは未来を描けるのか

 

その憎悪が今、事件を受けて渦巻いている。例えば、ある民放のニュースでは、犠牲者の同僚が「怒りしかない」という言葉を伝え、通院していた男性も「怒り」と表現し、画面のテロップには「憎悪」と強調された。

これらの言葉は事実であろう。マイクを向けられ発せされた言葉は、個人の感想であれ、事件後の今という瞬間を切り取った世相を示す象徴的なもの。それはニュースになりえる。記録する役割を担うメディアの仕事としても、これら憎悪や怒りを伝えることは、現実を報道する役割に矛盾するものではない。

それでも、この憎悪を現実として伝えることで、私たちは何を得られるのだろうか。憎悪の伝達で「どのような未来が描いていけるのか」という問いを立てた場合、どのような答えを導くだろう。私のこれまでの研究等で、精神疾患に関わる報道が十分な情報がないままに憎悪のイメージが増幅されたことで、結果的に疾患者が窮屈になる雰囲気が醸成された現実を確認してきた。

誰かを悪者にすることで、得られる正義は欺瞞でしかないこと、「鬼畜米英」の言葉にどのような悲劇が待っていたかを私たちは知っている。このような憎悪の共有化は、結局リワークを受ける方々の生前の苦しみに寄り添うことから離れてしまう気がするのである。

二度と同じ事件も犠牲者も作ってはならない。憎悪で犠牲者の生前の想いを踏みにじってはならない。その決意から、私たちが今何をするべきか、メディアを操る組織も個人も「ケア」の視点から考えてみることを提唱したい。

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