現実に台湾有事の懸念が高まった今、政界の大立者である安倍氏の発言は、日本国民の一部にみなぎる嫌中感情や好戦的な気分を、いたずらに刺激しているのは明らかだ。平和を守りたい大多数の国民の思いは無視されている。
むろん筆者とて、中国に寛容であるべきとは思わない。ウイグル族への人権侵害、香港市民への弾圧。およそ一流国家とはいえない野蛮なふるまいを続ける中国が、台湾を奪い、尖閣に手を伸ばし、やがてアジアはおろか、世界の覇者になるのでは、などと考えるだけでも気分が悪くなる。そうさせないための外交、防衛、経済戦略が必要なことは言うまでもない。
しかし、戦争は絶対に避けねばならないのである。国民の感情を煽り、メディアの目を曇らせ、軍を“気分本位”の行動に駆り立てることほど無益で残酷なことはない。太平洋戦争において、旧日本軍が夜郎自大の自信、人情過多、希望的観測の迷路をさまよって、合理的作戦を立てられなかったのは、まさに“気分本位”のなせるわざである。
権力私物化の責任をとって議員辞職してしかるべき元首相が、いつまでものさばって、あれこれと現政権の政策に口をはさむような発言をするのはどうしたことか。
安倍氏の政治的言動には、支援者や友人から誉めそやされて満足を得たいという願望が見え隠れする。やれ台湾有事、日本有事と勇猛心を鼓舞する軽々しさも、モリ・カケ・サクラといった数々の疑惑も、全て同じ根っこから生まれているように思えてならない。
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image by: 首相官邸