サクラ不起訴で逃げ切り成功。はしゃぐ安倍晋三元首相が取るべき「責任」

 

昨年12月1日、台湾のシンクタンクが主催するシンポジウムにオンライン参加し「新時代の日台関係」と題して講演した内容の一部。

「中国にどう自制を求めるべきか。私は総理大臣として、習近平主席に会うたびごとに『尖閣諸島を防衛する日本の意思を見誤らないように』、そしてその意思が確固たるものであることを明確に伝えてきました。尖閣諸島や先島、与那国島などは台湾からも100キロ程度しか離れていません。台湾への武力侵攻は、地理的、空間的に必ず日本の国土に対する重大な危険を引き起こさずにはいません。台湾有事、それは日本有事であり、すなわち日米同盟の有事でもあります。この点の認識を北京の人々は、とりわけ習近平主席は断じて見誤るべきではありません」

もし、中国が台湾に攻め込んだら、台湾防衛のため日本は米国とともに戦うという考えを表したものと受け止めることができよう。

その理由としてあげているのは、「尖閣諸島や先島、与那国島などは台湾からも100キロ程度しか離れていない」という地理的な問題のみである。だが、距離が近いからといって、戦争に巻き込まれるとは限らない。例えば朝鮮戦争。日本は経済的利益を除き、なんら影響を受けなかったではないか。

安倍氏は最も重要なポイントを語っていない。安倍政権が憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認し、2015年9月に強行採決の末に成立させた安全保障関連法があるからこそ、「台湾有事は日本有事」と言えるのだ。

集団的自衛権は「存立危機事態」において行使できることになっている。それは「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃により、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるとき」だ。

同盟国である米国が台湾をめぐって中国と戦争をすれば、安保法に基づき、集団的自衛権の名のもとに日本も参戦せざるを得なくなる。そうなると、全国に131か所の米軍基地と、約160カ所の自衛隊駐屯地がある日本の国土が攻撃され、一般市民にも被害が及ぶ可能性が高まる。

ここまで安倍氏が説明すれば、「台湾有事は日本有事」の意味が理解できるだろうし、同時に、戦争を避けるための外交努力がなにより大切だということにも思い至るであろう。

つまり、安倍氏の言う「台湾有事=日本有事」は、一面の事実だが、それに関するきちんとした説明がなければ、可燃性のナショナリズムを刺激し、戦意をあおるだけに終わる恐れがある。

その意味でも、右派論客の異様なはしゃぎようは気になるところだ。安倍発言への賛意は、その分量だけ岸田政権の対中政策批判に向けられる。以下は、「月刊Hanada」に掲載された櫻井よしこ氏と安倍氏の対談の一部だ。

櫻井氏 「岸田政権は中国に甘いのではないか、と見える側面もあります。林芳正外相は11月21日、BS朝日の番組で、中国の王毅国務委員兼外相と電話会談をした際、訪中の要請を受けたと明かしました。外務省は、すでに日程調整に入っていると言います。ウイグルや香港、台湾の例を見るまでもなく、中国は横暴な国であり、尖閣諸島にも毎日のように中国の公船が入っているのに、『いったい何を考えているのか』という気持ちです」

安倍氏 「林外相の真意は分かりませんが、外務大臣という立場上、どんな状況にあったとしても、対話の窓は開けておこうということなのだろうと思います。(中略)いま、日中間にはさまざまな問題があります。だからこそ、外務大臣はチャンネルをつくりながら、対話の窓を開いておく。会談のタイミングなどは状況を勘案しながら決めていけばいいですが、対話の窓を閉じることは、外交上すべきではないと思います」

櫻井氏 「もちろん、対話はすべきですが、なぜ、いま日本が『訪中』する必要があるのか、非常に理解し難い。(中略)日本の外務大臣の訪中は、中国の弾圧政策を支持することになります。岸田政権の対中姿勢に不安感を覚える国民は多いと思います」

安倍氏は岸田政権を支えると言明している立場上、林外相を擁護せざるを得ない。だがそれは、櫻井氏の林外相批判に納得しているからこそ繰り出せる建前論といえよう。

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