中国ですら手懐けられず。国民を虐殺するミャンマー司令官の正体

 

一つの理由として考えられるのは、「中国に対する警戒心を解かないこと」があるようですが、同じ国軍出身で、予想に反して民主化への移管をスムーズに進め、かつミャンマーに経済成長の基盤をもたらしたティン・セイン政権の“成功”のイメージに自らを重ねたいとの思いもあるようです。

ティン・セイン政権が成功した理由は、欧米諸国からの投資を積極的に受け入れると同時に、中国ともよい関係を保ち、2010年に軟禁が説かれたアウン・サン・スー・チー女史を政権に取り込むことで、欧米諸国にラスト・フロンティアという幻想を強調できたことと考えられます。

この考えは、実は2月1日に行われたミャンマー情勢に関する会合で、かつてビルマ出身で国連事務総長を務めたウ・タント氏のお孫さんが表明したものなのですが、この見解に照らし合わせてみると、フライン総司令官が行っている様々な方式は悉くティン・セイン政権のケースと逆方向に進行させていることが分かります。

一応、来年の8月までに民主的な総選挙を行うと約束し、自らの政権を暫定政権と位置付けるのですが、ティン・セイン政権時との大きな違いは、“民主主義のシンボル”に位置付けられるリーダーが存在せず、逆に再度軟禁状態に置かれているという状況です。

アウン・サン・スー・チー女史も、残念ながら10年にわたり国民の期待のみならず、国際社会からの期待にもこたえられなかったと言えます。外務大臣兼国家顧問の立場にありながら、国軍によるロヒンギャへの残虐行為に対して何一つできなかったことは、「しかたなかった」とする意見もありますが、大きな失望を生み出したと思われます。

その結果がどうかは断言できませんが、スー・チー女史の窮状と民主主義の衰退、そして国軍による強権などに対して、民主主義サミットまで開催した国々は実質的には何も効果的な策を打っていません。

「民主主義は失敗した」との批判に耐えられないアメリカの国内事情、「人権擁護を訴えつつ、対応にばらつきが目立つ欧州各国」という事情もありますが、今、争うべきは中国との最前線、つまり台湾と南シナ海という位置づけが、ミャンマーへの対応の遅れと物足りなさを生んでいるのだと感じます。

実際には中国とインドに挟まれた、アジア地域における地政学的な要所にあるにもかかわらず。

そしてそれは、アジアシフトを打ち出している割には、中国以外のアジアにはさほど関心がないのではないかとの疑問につながります。

それは、かつて私が国連にいた際に仲良くなったビルマ人コミュニティの皆さんも感じているようで、ビルマ(ミャンマー)問題を話し合う際のUNにおける各国の煮え切らない雰囲気に強いフラストレーションを感じているようです。

個人的にはどこか北朝鮮問題に似ているような気もしています。

大きな違いは核問題が絡まないことですが、非難はしても行動を取ってこないという現在の状況を嘲笑うかのように、フライン総司令官と国軍は、この1年間で少なくとも2,500件の武力衝突を引き起こし、数えきれないほどの蛮行と虐殺が国軍と警察という治安勢力によって行われています。

クーデター直後は、少数民族と接近することでNLDとの切り離しを行おうとしたフライン総司令官ですが、それがうまくいかないことを悟ると、態度を180度転換して、少数民族への攻撃を徹底し、その攻撃が残虐さを増すことで、「反抗する者は殺害する」とのメッセージを打ち出す強権政治の体裁を示すようになってきました。

これには内政不干渉を掲げるASEANも、隣国中国も大きな懸念を示しているのですが、それぞれに国内での人権問題や少数民族問題を抱える立場であることもあり、フライン総司令官に対する効果的な行動の抑止力にはなっていません。その証拠に、9月以降の半年で、一気に虐殺や蛮行が報告される案件が急増しており、弾圧の糾弾に対しても、その存在を否定しないという国軍側の姿勢は、完全に国際社会からの離脱を厭わない意思が見えます。

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