PKO(国連平和維持活動)や国際平和協力活動の後方支援に出る自衛隊は、この第43条の意味で、明らかに『軍隊』ということになります。また、1994年に国連総会で採択された『国際連合要員及び関連要員の安全に関する条約』も、軍人・警察官・文民を問わず国連PKO要員の抑留を禁止しています。
この地位は、自衛隊が戦力なのかとか、自衛隊の海外派遣は許されるのかといった日本国内の憲法論議とは、まったく別の話なのです。日本政府にも自衛隊にも、紛争当事国の戦闘員になる意思などまったくないとしても、紛争が起こっている国に、武器を持った軍隊として存在しているのですから、なんらかの武装勢力の攻撃が自衛隊に及んだ瞬間、自衛隊は紛争当事者となるのです。
さきほどの政府の答弁は、自衛隊が紛争当事国の戦闘員かどうかを決めるのは、日本政府ではなくて自衛隊を攻撃する側である、という現実を忘れています。
要するに、自衛隊という名称のままであり、自衛官という身分であっても、捕虜として扱われる権利はあるのです。そして、自衛隊が軍隊と名称を変え、自衛官の身分が軍人になったとしても、捕虜の待遇を受けられるかどうかは相手次第なのです。
その現実を直視して、どんな場合にも捕虜として処遇され、虐待を受けたりしないようにするためには、そんなことをしたら手痛い報復を受けることになることを知らしめ、その能力を備えていることを見せておく必要があるのです。それでも密かに処刑される可能性がありますが、相手に躊躇わせるだけの姿勢を示しておかなければなりません。
日本の議論は、いかにも自衛官の身の安全を考えているかに見えながら、実は現実を知らずに机上の空論に終始しているのです。これは、国際社会の常識からして、あまりにもナイーブです。条約や法律があれば必ず守られると思うのは無邪気すぎます。世の中が条約や法律が想定したとおりに動くなどということはありえないのです。
日本の議論がいかに国際的な常識やリアリズムに欠けているか、いま一度、肝に銘じたいものです。(小川和久)
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