高笑いの米国、冷静な中国。EUが「ウクライナ戦争」最大の“敗者”となる訳

 

いまもし日本のテレビでこんなことを話せば、ロシアに洗脳されている、中国はロシアの味方だから、中国のプロパガンダに乗せられているといった安易な言葉で切り捨てられそうだが、残念ながらこの考え方の大本はアメリカのリアリストたちだ。

具体的にはアメリカのヘンリー・キッシンジャー元国務長官とアメリカの対ソ連外交を担った外交官・ジョージ・ケナンである。

対ソ連封じ込め戦略の創案者で「アメリカの外交の対ソ戦略で最も優れた実績を残したケナンは90年代後半、NATOの拡大は誤りであり、ロシアの反発を招きかねないと「警告」していた。そしてキッシンジャーもまた、「(ウクライナは)東西対立の駒ではなく、意思疎通の架け橋になるべきだ」と提言していた。

皮肉なことにキッシンジャーの提言は無視され、ケナンの警告は現実となった。このことが現在の惨劇に何も影響しておらず、ひたすらロシアの専制主義的とプーチン大統領のパーソナリティ──なかには病気説まで飛び出したが──に帰結させることが正しいはずはないのだ。

大国間の競争という視点を持ち続ける中国に目には、ウクライナ問題はどう映っているのか。一つの典型的な記事がある。

3月25日に『人民網日本語版』が掲載した〈【国際観察】「戦争帝国」が誘発したロシア・ウクライナ衝突〉である。筆者の李自国中国国際問題研究院ユーラシア研究所所長は、アメリカ・NATOがロシアの警告を無視して東方拡大を続けた理由を、「(アメリカが)ロシアを地域の安定を脅かす悪しき隣国に『仕立て上げる』こと」だったとした上で、ウクライナは「不幸にもアメリカに、ロシア抑止の重要な足がかりとして選ばれてしまった」と記している。

現実にいま、ロシアの行動が世界中から非難され、制裁の波がロシアを取り囲んでいることを考えれば、この見立てには一定の説得力が備わっていると言わざるを得ないが、李氏はさらにアメリカの利益について、「今回のロシア・ウクライナ危機を作り出すことで、アメリカは低コストでロシアと欧州の関係を離間させ、天然ガスパイプラインプロジェクト「ノルドストリーム2」をぶち壊し、NATOを活性化させ、ロシアを弱体化させたのであり、間違いなく『勝者』と言えるだろう」と断じているのだ。

だが、この見解には注意が必要だ。ロシアを取り囲んで制裁をしているのは米欧だが、李氏が勝者と呼んでいるのはアメリカ一国であり、ヨーロッパではないからだ。

中国のメディアが扱うウクライナ問題は、実はこうした見方が一般的だ。いわゆる勝者はアメリカで、敗者はウクライナを含むヨーロッパとロシアという位置づけだ。

ロシアとウクライナが共倒れになる未来は想像に難くない。だが、制裁をしているヨーロッパが敗者となるという見方は、日本ではほとんど見掛けない。日本人には抵抗がある捉え方なのだろう。

一つの事例がある。それはロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けた通貨の変化だ。ドルは高騰し、ユーロは大きく値を下げた。

侵攻後、ウクライナのビリオネラたちは一斉に出国したとされている。一説には100人のうち96人が海外に渡ったとさえいわれている。こうした場合、ウクライナを深刻なキャピタルフライトが襲うが、彼らが持ち出した莫大な資産はどこに向かったのか。一人一人追跡することはできないが、この過程でドルの価値が上がり、対するユーロの価値が下がったことを踏まえれば、資金はアメリカに向かったと考えるのが自然だ。実際、アメリカの株式市場は急速に持ち直した。

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