なぜ中国は対プーチン露の経済制裁に同調しないのか?理由は「友好国」に非ず

 

中国が対ロ制裁に消極的な理由は、それだけではない。相手がロシアという友好国だからという理由ではない。むしろもっと根本的な理由だ。それは制裁に効果がないということだ。

実際、中国には経験がある。ロシアが制裁の対象になる前、アメリカが発動する制裁の主要な相手は中国だった。制裁によりどんな逆風が吹くのかは、経験済みなのだ。

事実、ウクライナ紛争のインパクトにかき消されてしまったが、今年3月末、アメリカ政府はこれまで発動してきた関税の制裁をひっそり緩めているのだ。

ロイター通信の記事「米の対中関税、352品目を除外対象に再び選定」(2022年3月24日)によれば、「米通商代表部(USTR)は23日、中国からの輸入品に対する米国の『301条』に基づく関税の適用除外対象として、失効していた352品目を復活させたと発表した。これまで検討していた549品目を大きく下回った」という。

制裁が当初の勢いを失っているのは当然だろう。その理由は制裁効果がピンポイントで対象国に向くことはなく、逆に制裁を発動した国に発揮されてしまうこともあるからだ。

実際トランプ政権下で発動された対中制裁関税は、結局、アメリカの消費者が負することになった──「American Consumers, Not China, Are Paying for Trump’s Tariffs」(『The New York Times』Dec. 31, 2020)など多くの記事が見つかる──ともいわれているのだ。同じように対ロ制裁も、世界をただルーズルーズの状態に陥らせて終わる可能性さえ指摘されるのだ。

驚くべきは、ロシアに向けられている制裁の多さである。

環球網の記事「西側の対ロ制裁はすでに8,000項目を上回る 内容も徐々に理不尽に……」(4月3日)には、8,000を超える制裁のうち5,310件が今年2月22日以降に発動されたことが記されてある。また、記事では文学作品から音楽まで排除し、果てはロシア軍を意味する「Z」のロゴマークまでが攻撃対象になるという、ある種の「制裁狂騒」の様子にも焦点が当てられている。

犠牲になるウクライナ市民の映像が連日報じられている現在はまだしも、制裁と貿易規制の影響が顕著に表れる始める秋ごろには、制裁を声高に叫ぶ人々の興奮もある程度冷めているはずだ。

そのとき「難民ではなく家族」と歓迎しているEUの国々は、変わらず温かい気持ちで難民と向き合えているのだろうか。ウクライナの難民の受け入れコストは一説には1人2万ドルともいわれる。この負担を世界は意識しないままでいられるだろうか。

さらに世界はエネルギーを中心にコスト上昇にさらされ、小麦を中心とした農産品の不足にも見舞われるのだ。EUの国々は現状でも深刻なインフレ圧力が最も重くのしかかるのが欧州経済だ。

そしてもし自分の生活を犠牲にして行った制裁が「効果がない」と感じたとき、欧州の人々はどのような反応になるのだろうか。その不満が人々を好戦的な思考に変えてしまうのだとすれば、それこそ取り返しのつかない事態だ。

その意味では習主席がEUとの首脳会談で語った「中国と欧州は情勢のコントロールに力を入れ、危機のオーバーフローを防止し、特に世界経済体制と規則、基礎の安定を維持し、人々の自信を高めていかなければならない」という呼びかけは、決して的外れとは言えないはずだ。

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image by: Kaliva / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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