ロシアのウクライナへの侵攻は、その動機がどうであれ中小規模の国の恐怖心に火を着ける役割を果たした。これは多くの国がアメリカへの依頼心を高める効果をもたらす。
顕著であったのはNATO(北大西洋条約機構)の地位が急上昇したことである。昨年まではフランスのマクロン大統領に「脳死した」とまで酷評され、その存在意義に疑問符が投げかけられていたNATOだ。しかしウクライナ紛争が起きると、その不要論は一気に吹き飛び、逆にNATOに対する期待の声が高まったのである。
同じようにアジアでは、台湾の蔡英文政権がアメリカ重視の姿勢を強めた。直近ではバイデン政権が台湾にパトリオット迎撃ミサイルシステムを売却することを決め──これはバイデン政権で3度目の大規模な兵器売却となる──「蔡英文総統が謝意を伝えた」という報道が駆け巡った。
米台のケースでは互いの政権が内政のために利用し合っている構造も見受けられるが、日本は台湾以上に純粋な反応をしている。アメリカの思惑を忖度して台湾海峡の問題に積極的に絡んで中国を敵視し続けている。
大国間の摩擦が激しくなった時には、それに巻き込まれたり利用されたりしないために注意することが鉄則だが、逆に自ら問題を激化させているのだから驚きである。
少し話が逸れてしまったが、こうして各地で吹く風がどれほど大きなメリットをアメリカにもたらすのか、改めて記すまでもないだろう。繰り返しになるが、その最大の追い風は欧州で吹いている。
ゆえにアメリカはウクライナの紛争が続いてくれることを願っている、というのが中国の見立てであり、このメルマガでもそう書いてきた。そして興味深いのは、いまの展開がまさに中国の絵解き通りに進み始めたということだ。
すでに報じられているようにアメリカ・NATOはここにきてウクライナに攻撃的な武器の提供を行うのだ。
ロシア軍の侵攻を受けて被害が拡大しているウクライナを助けるためなのだから当然だと考える読者は少なくないだろう。だが、問題はこのタイミングだ。なぜ、最初の段階からそうしなかったのか、である。
また一番大切な視点として、もし世界がいま、一刻も早い事態の鎮静化をはかりたいのであれば、ウクライナ軍への中途半端な支援はかえって危険だということだ。ウクライナ側が反撃に期待を持てば、停戦合意は遠のいてしまい、戦争という悲劇は出口を失ってしまうからだ。
事実、ロシアのラブロフ外相は4月7日、ウクライナ側が3月29日の協議で提出した文書より「重要な規定で(表現の)後退がある」と不満を述べた。
これがウクライナの泥沼化の入り口であれば戦闘の激化も避けられない。今後プーチン大統領が突然大きく譲歩する可能性は考えにくい。そうなれば、ロシア軍の攻撃レベルは一段と高まることが予想される。ウクライナにはいまより大きな悲劇が降り注ぐことになりはしないだろうか。
2月24日の侵攻直後から、中国メディアに登場する国際問題の専門家たちは、アメリカの狙いを「戦争の長期化」だと口をそろえて警告した。ロシアを長期間この問題に縛り付けて弱体化させる目的だ、と。
だからこそ国際社会で停戦に向けた仲裁が話題となり、中国にその役割が期待されたときには、「アメリカが合意間近で梯子を外す」危険性を考慮し、中国は慎重になったのだ。
つまり中国の見方は一貫していて「停戦合意がまとまりかけたタイミングでアメリカが必ず邪魔をする」と見ていたのだ。
いま中国のウクライナ関連の報道には「やっぱりな」、「それ見たことか」という論調があふれかえっている。
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