なぜウクライナ危機は「トランプ的陰謀論」を氾濫させるのか。危険な親露・ナショナリズムの動き

2022.05.02
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ロシア軍高官がモルドバの親ロシア派地域「沿ドニエストル」まで支配下に収める計画を示唆するなど、停戦どころかさらなる侵攻が懸念されています。国際的な批判が高まる一方で、親露・ナショナリズム的な動きも目立っていると語るのは、金沢大学法学類教授の仲正昌樹さん。仲正さんは今回、一部であがりつつある「ヴィラン(悪役)を求める声」に警鐘を鳴らしています。

プロフィール仲正昌樹なかまさまさき
金沢大学法学類教授。1963年広島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了(学術博士)。専門は政治・法思想史、ドイツ思想史、ドイツ文学。著者に『今こそアーレントを読み直す』(講談社)『集中講義!日本の現代思想』(NHK出版)『カール・シュミット入門講義』(作品社)など。

ウクライナ危機で「日本版トランプ」は誕生するのか?

ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、日本を含む西側諸国の多くは、ロシアとの直接的な戦闘に加わることは回避しながらも、ウクライナ支援・ロシア制裁で概ね一致している。

しかし、その一方、結束を乱す、親露・ナショナリズム的な動きも目立っている。ハンガリーの総選挙では、親露的な政権与党が議席を伸ばした。

フランス大統領選では、ロシアへの経済制裁強化に反対し、NATOからの離脱を示唆する国民連合のルペン党首が支持を伸ばし、中道のマクロン大統領との決戦投票に進んだ。結果はマクロン氏の勝利だったが、前回の大統領選よりも票差はかなり縮まり、40%を超える得票をした。

アメリカでは、プーチン大統領を政治家として評価するトランプ前大統領の再登板待望論が盛り上がっている。

日本でも、ウクライナ危機の背後で、「アメリカを牛耳る“ディープ・ステイト”が暗躍している」、「日本のメディアは彼らの言いなりに報道し、国民の利益を損なっている」といった陰謀論的な言説が流布している。世界で何が起こっているのか。

トランプ氏やルペン氏のプーチンびいきは今に始まったことではない。グローバリゼーションによって自国の雇用が破壊されているという前提に立ち、移民排斥と国内産業保護を前面に出していた彼らは、EUやNATOの東方拡大に抗して、大ロシアの復活を目指すプーチン大統領を盟友のように見ていた。

彼らに共通するのは、むき出しの自国中心主義だ。

長年にわたって自由主義社会の盟主を自認し、世界各地のもめ事に警察官として介入してきたアメリカでは、ごく最近まで、反グローバルなナショリズムは根付きにくかった。世界の警察官が、排他的になるわけにはいかなかったのだ。

1980年代後半から90年代にかけての共和党は、レーガン—ブッシュ(父)政権時代に英国と共にグローバリゼーションを推進した。

しかし、グローバル化によって“職を奪われた”ことへの怒りを募らせる白人貧困層の怒りを支持基盤としたトランプ氏が大統領に当選したことで、共和党はあっという間に自国ファーストの政党になった。

アメリカもフランスも元来、自分たちは世界で最もオープンで、多様な人材を受け入れることで、進歩の最先端にいることを売りにしてきた国である。国際的なヒーローを演じてきた。

しかし、ヒーローを演じ続けるのはきつい。労働市場や生産拠点のグローバル化が進んで、国内産業の空洞化が進むにつれ、ヒーローであるための体力は失われていく。

そこで、かっこうつけなくてもいい、邪魔な連中を排除し、身内を最優先してなにが悪い、と開き直る、いわば、ヴィラン(悪役)になり切るトランプ流が受けたるようになったのである。

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