なぜウクライナ危機は「トランプ的陰謀論」を氾濫させるのか。危険な親露・ナショナリズムの動き

2022.05.02
 

私は別に、国際正義より国益を優先するナショナリズムが悪いと言いたいわけではない。それぞれの国家に主権・国益がある以上、常に普遍的正義に則って行動することはできない。

しかし、欧米の大手メディアを味方につけたバイデン氏やゼレンスキー氏の言葉が嘘くさく聞こえるからといって、その“嘘を暴く”と称するソースを無条件に信じて拡散するのは、愛国者でもリアリストでもなく、ただの陰謀論者である。

自分は陰謀論者でもトランプ信者でもないという人は、以下の点についてよく考えてみるべきだ。

①トランプ氏であればプーチン氏を抑えられるという議論にどのような根拠があるのか。アメリカの国内利益最優先のトランプ氏は、ウクライナがロシアの勢力圏であるとあっさり認め、天然ガスなどの利権を得ようとする、といいことはないのか。

②仮にバイデン氏がウクライナのNATO加盟に向けて裏工作をしていたというのが本当だとしても、それがロシアがウクライナにいきなり攻め込み、全土制圧を目指すことを正当化する理由になるのか。

③逆キューバ危機だと言う人もいるが、アメリカがウクライナに核ミサイルやそれに匹敵する兵器を持ち込んだのか。

④国際法の大原則を無視して、プーチン流に全ては力だという“本音”に徹することが国益に適うのか。

プーチン氏の戦争はトランプ復権のカギでもなんでもないのである。

プロフィール仲正昌樹なかまさまさき
金沢大学法学類教授。1963年広島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了(学術博士)。専門は政治・法思想史、ドイツ思想史、ドイツ文学。著者に『今こそアーレントを読み直す』(講談社)『集中講義!日本の現代思想』(NHK出版)『カール・シュミット入門講義』(作品社)など。

image by : Presidential Press and Information Office / CC BY 4.0

仲正昌樹

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