本能寺の変で泣いたのは嘘?なぜ晩年の豊臣秀吉の夢枕に織田信長が立ったのか?

Osaka, Japan - Circa 2015: Toyotomi Hideyoshi statue and traditional roofs under the rain at temple in Osaka Castle
 

さて、天下人となった秀吉は信長をどのように評価していたのかを知るエピソードがあります。

ある武将が信長公はどんな点が偉かったのですか、と秀吉に問いかけました。秀吉は即座に、「あのお方はどのような負け戦でも生き残ることができた。その点が一番偉かった」と答えたそうです。

また、ある日、徳川家康、前田利家、毛利輝元など居並ぶ諸大名に向かって、「今、蒲生氏郷が兵千騎、今は亡きわが主人、総見院さまが兵五百騎で合戦に及んだとしたら、どちらが勝つと思うか」と問いかけました。

蒲生氏郷は信長の娘婿でこの当時、天下無双の合戦上手と評価されていた武将で、秀吉の信頼も厚く、会津九十二万石の大大名に取り立てられました。総見院とは信長の法名です。

その氏郷が信長に倍する軍勢を率いる……しかし、相手は何と言ってもあの織田信長。

諸大名は答えられませんでした。

すると秀吉は、「氏郷の負けである」と言います。その理由として、「総見院さまは兵五百騎の内、四百五十騎を討ち取られたとしても残り五十騎の中におわす。一方、氏郷はたとえ千騎の内百騎しか討たれなかったとしてもその百騎の中におる。将なき軍勢などは烏合の衆である。総見院さま、生きておわす限り必ずや再起なさるだろう。わしは迷うことなく総見院さまにお味方申し上げる」と説明したのでした。

これは蒲生氏郷の猪突猛進ぶりを諫める目的もあったそうですが、戦国時代の評価基準を物語ってもいます。

江戸時代、天下泰平の時代の武士を表す言葉に、「武士道とは死ぬことと見つけたり」という、「葉隠」の有名な一節があります。主君の為には死ぬ覚悟で忠節を尽くせ、という心得を説いた言葉ですが、戦国の世にあっては生き残ることにこそ価値があったのです。サバイバルに長けた者が勝者となるからですね。

秀吉の信長評は戦国大名として信長の優秀さを物語っているのです。

秀吉はこのように高く信長を評価していましたが、信長の天下を奪った後ろめたさを抱いてもいたようです。それを物語るエピソードが加賀百万石の前田家の文書に残されています。

晩年、病床にあった秀吉の夢枕に信長が立ちます。信長は秀吉にそろそろこちらにまいれ、と命じます。秀吉は今しばらくお待ちください、と頼みます。

信長はならんと怒鳴り、秀吉は、わたしは上さまの仇を討ちました、何卒ご猶予を、と更に頼み込みます。すると信長は、おまえはわしの子らをひどい目に遭わせた、許せぬ、こっちへ来い、と秀吉を布団から引きずり出しました。

秀吉は絶叫し、布団から転げ出して目を覚ましたそうです。

その時、寝間には正室の北政所と前田利家がいました。二人は寝間の片隅で寝汗びっしょり、顔面蒼白となってぶるぶる震える秀吉を見たそうです。

信長への思い、複雑なものがあったのかもしれません。

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image by: Samuel Ponce / Shutterstock.com

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1961年岐阜県岐阜市に生まれる。法政大学経営学部卒。会社員の頃から小説を執筆、2007年より文筆業に専念し時代小説を中心に著作は二百冊を超える。歴史時代家集団、「操觚の会」に所属。「居眠り同心影御用」(二見時代小説文庫)「佃島用心棒日誌」(角川文庫)で第六回歴史時代作家クラブシリーズ賞受賞、「うつけ世に立つ 岐阜信長譜」(徳間書店)が第23回中山義秀文学賞の最終候補となる。現代物にも活動の幅を広げ、「覆面刑事貫太郎」(実業之日本社文庫)「労働Gメン草薙満」(徳間文庫)「D6犯罪予防捜査チーム」(光文社文庫)を上梓。ビジネス本も手がけ、「人生!逆転図鑑」(秀和システム)を2020年11月に刊行。 日本文藝家協会評議員、歴史時代作家集団 操弧の会 副長、三浦誠衛流居合道四段。 「このミステリーがすごい」(宝島社)に、ミステリー中毒の時代小説家と名乗って投票している。

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