まず行動せよ。サントリー創業者の口癖「やってみなはれ」の先見性

2022.06.03
shutterstock_1283257825
 

私たちの生活の質を飛躍的に向上させたデジタルツールの急速な普及ですが、それはまたマーケティングの手法をも大きく変化させたようです。今回、デジタル時代のマーケティングにおいて必要不可欠となった要素を解説するのは、神戸大学大学院教授で日本マーケティング学会理事の栗木契さん。栗木さんは記事中、行動しながら解をつかむというアプローチを取り上げ、その際に併せ持つべき「ある発想」の重要性を説いています。

プロフィール栗木契くりきけい
神戸大学大学院経営学研究科教授。1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

サントリー「やってみなはれ」に実験発想がなぜ必要になったか

予測型が主流だったマーケティングの発想

この10年間ほどの間でマーケティングのデジタル化は急速に進んだ。そこにコロナ禍で拍車がかかった。

伝統的なマーケティングにおいて主流だったのは、事前に市場調査を行い、新製品・サービスの完成度を高めたうえで、市場に投入していく予測型のアプローチだった。ところが、デジタル時代が進行していくなかで、こうした伝統的なアプローチとは異なるやり方でのマーケティングの有効性が増している。たとえばプロトタイプ法のように、試作品的な新製品・サービスを販売し、顧客の反応などをデジタルツールで素早く収集して、機能の追加や改善を繰り返しながら、販売を拡大していくというアプローチである。

行動を起こすことで解をつかむアプローチ

デジタル時代において、可能な情報の収集と分析の広さと深さは急速に増してきた。しかし、市場のような複雑な場については、未来を正確に予測するというのは依然として見果てぬ夢である。

しかし、あきらめることはない。予想が難しいのであれば、やってみればよい。「やってみなはれ」はサントリーの創業者の鳥井信二郎の口癖だったという。需要のないところに需要をつくり、市場のないところに市場をつくるというのが起業家である(石井淳蔵・栗木契・横田浩一『明日はビジョンで拓かれる』碩学舎、2015年、136-138頁)。

高名な経営学者のP.ドラッカーも、大学の講義のなかで「将来は予測がつかない」と繰り返し口にしていたという。しかしドラッカーは「将来は切り開くことができる」と学生たちに語っていた。予測通りではない将来においても、目標に向けて粘り強く行動を続けていれば、未来はつくりだすことができる(W.コーン『ドラッカー先生の授業』ランダムハウス講談社、2008年、182-186頁)。

予測は難しくても、行動を起こすことはできる。そして行動をしながら解をつかみ取ればよい。この古くからのビジネスのテーゼの有効性が、先のプロトタイプ法のように、デジタル時代の進行とともに増している。そのなかで予測の精度を高める統計分析に加えて、市場での試行錯誤からより的確な情報を得るための実験計画の能力の重要性が高まっている。

print
いま読まれてます

  • まず行動せよ。サントリー創業者の口癖「やってみなはれ」の先見性
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け