広告効果はあったのか?
近年、デジタルツールの活用が広がるなかで、予測型に代わってフィードバック型のアプローチの有効性が高まっている。やってみなければわからないことが多いのであれば、実際に試作品的な新製品・サービスを販売しながら効果を確かめ、軌道修正していけばよい。デジタル化が進む市場では、フィールド・データを収集し、効果を短期間で検証することが容易になっている。
たとえば、オーガニック化粧品のネット販売を行うA社が、新製品Bの発売にあたって制作したインターネット広告Cの効果を事前に見極めきれずにいたとする。A社は「それならば」と、新製品Bの発売と同時に広告Cを実際に投入してみる。新製品Bの販売は順調に伸びる。
しかしここで、「ネット広告Cを配信した結果、販売につながった」と考えることには問題が多い。「マーケティング・ミックス」という言葉があるように、マーケティングの効果は複数の活動の組み合わせによって生じる。ブランドや顧客関係などのマーケティング資産が充実している企業では、広告に費用を投じなくてもプロモーション効果は別のところからも生じる。
たとえばA社が、自社のブランドのファンを多く有しており、このファンへのSNS発信、そしてそこから広がるウェブ上の口コミによって新製品Bへの販売がうながされるのであれば、この効果を割り引いて検証を行わなければ、投じた広告Cの実質的な効果はつかめない。広告Cの投入後に生じた新製品Bの売上げの大半は、広告Cではなく、A社のSNSから広がる口コミなどによって生じていたかもしれないのだ。
実験計画の発想による効果測定
ここで、あなたに実験計画の発想があれば、次のような設定で広告効果を検証することを思いつくだろう。インターネット上で広告Cに加えて広告Dも用意し、配信するのである。広告Dの内容は新製品Bの販売促進におよそ関係がなさそうな、たとえば架空の二酸化炭素排出量削減キャンペーンなどである。そしてこのダミーの広告Dを視聴したグループと、そもそもの広告Cを視聴したグループの新製品Bの購買率の差などを比較してみる。
この2つのグループの新製品Bの購買率が同じ程度なのであれば、残念ながら広告Cには効果がなかったと判断せざるをえない。広告Cを投入して獲得できたのと同等の購買を、広告Dの投入でも獲得できたということは、広告Cには新製品Bの販売促進力はなく、一見広告Cの効果に見えるものは、A社のSNS発信、そしてそこから広がるウェブ上の口コミにより生じたものだったということになる。