欧米が吹聴する「すべてプーチンが悪い」の大ウソ。“複合”戦争で勝利する中露

 

米国は、対ロシアだけでなく中国敵視についても複合戦争の形態を採っている。米政府はバイデンの日韓訪問を機に、経済分野の新たな中国敵視協定として「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を作った。米国は、台湾を使った軍事面の中国敵視と、経済面の中国敵視IPEFを絡ませた複合戦争をやっている。経済面の中国包囲網としては、オバマが作ってトランプが離脱して米国抜きで開始されたTPPもある。バイデンは、IPEFなんか作らないでTPPに入ればいいじゃないかという話になるが、TPPに入ると米国は関税を引き下げねばならず、米国内で不評になる。IPEFは、関税引き下げがメニューにないので米国内で反対されない。TPPから米国側の諸国間の自由貿易の機能を抜き取り、中国敵視の要素を追加したのがIPEFだ。

US Announces 13-Nation Indo-Pacific Economic Pact To Counter China’s Influence In The Region

米日豪印韓ASEANのIPEF加盟諸国のうち米印など以外は、中国が主導するRCEP、日豪が主導するTPPにも入っている。それらの諸国はRCEPにも入っているのだから中国敵視をしておらず、むしろ「米中両属」になっている。米国は同盟諸国に対して「ロシアと貿易するな」と言えるが「中国と貿易するな」とはいえない。中国は世界経済にとってとても重要な国なので、対中国貿易を否定できないからだ。IPEFは、バイデン政権の付け焼き刃的な「なんちゃって組織」にすぎない。

中国と戦争しますか?

バイデンは東京での岸田首相との共同記者会見で「米国は1つの中国の原則を認めており、それに基づくなら、中国が台湾に軍事侵攻して併合しても米国は認めざるを得ない。だが、もっと根本的に考えるなら、独裁国である中国が民主主義の台湾を武力で併合することは決して許されない。その意味で、中国が台湾に侵攻するなら、米国は軍事力を使って台湾を守りたい」という趣旨と解読できる発言を行った。だがその後、米大統領府は「米国は、1つの中国の原則を支持する姿勢を変えていない」と軌道修正し、バイデン発言を無効にしてしまった。バイデン発言は「言い間違い」として報じられた。

What’s Behind Biden’s Resolve to Defend Taiwan Against Beijing?
Biden “Misspeaks” In Vow To Respond Militarily If China Attacks Taiwan, White House Walks Back

バイデンはこの9か月間に3回、同様の趣旨の発言を行い、そのたびに大統領府から「言い間違い」とレッテル貼り・訂正されてきた。要するに、大統領がいくら宣言しても、米軍が中国軍に戦争を仕掛けることはない。米国はこれから金融と覇権が崩壊していくのだから、今後ますます中国の敵でなくなる。米国が強い状態で台湾を傘下に入れ、中国が台湾を武力で併合できない事態が作られる可能性は今後さらに減る。台湾に兵器を供給する国もなくなって、台湾は防衛力が低下し、交渉で中国の要求を呑んでいかざるを得なくなる。それが見えているのだから、中国は台湾を威嚇するだけで侵攻しない。ロシアでも中国でも、複合大戦は露中非米側が米国側に勝っていく。

White House walks back Biden Taiwan defense claim for third time in 9 months

(無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』2022年5月25日号より一部抜粋)

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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