もう二度と届かない贈り物。ゴルバチョフの死で人類が失ったもの

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東西冷戦の終結に大きな力を発揮した旧ソ連最後の指導者・ゴルバチョフ元大統領が8月30日、91歳で亡くなりました。ロシアによるウクライナ侵攻に心を痛めていたというゴルバチョフ氏ですが、彼は人類に何を残し旅立っていったのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、ロシアの独立系新聞編集長の言葉を紹介しつつ、ゴルバチョフ氏が世界で果たした役割を解説。さらに冷戦終結の意味を取り違え、結果としてプーチン氏に戦争の理由を与えてしまった米国を批判しています。

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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年9月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

追悼ゴルバチョフ/ロシア人も世界の人々も彼が拓いた非戦への道を歩み損ねたことの結末としての現在

ゴルバチョフ元ソ連大統領が亡くなって、「彼は世界史を変えたかもしれないがソ連邦を救うことはできなかった」といった凡庸な評言がメディアに溢れている。その中で、短いけれども本質を突いていたのは、ロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ編集長の言葉だった。

ゴルバチョフは冷戦を終わらせた一方の当事者として、1990年にノーベル平和賞を受賞し、その賞金で同紙の93年の創刊を助けた。同紙の歯に衣着せぬ報道ぶりは、2000年以降のプーチン時代になり何人もの記者や寄稿者が変死の憂き目に遭ってさえ止むことがなく、そのため今度はムラトフ編集長が21年にノーベル平和賞を与えられた。今年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻についても批判的な立場を取り、3月からは国内での活動を禁じられた。そのムラトフがゴルバチョフへの告別の辞を発表し、こう言った(22年9月2日朝日新聞夕刊)。

▼彼は戦争を軽蔑した。彼はレアルポリティークを軽蔑した。彼は、世界秩序の問題を力で解決する時は過ぎ去ったと確信していた。彼は人々の選択を信じていた。

▼2年前、彼は国連のために非常に真剣な報告書を書いた。会食のテーブルで、彼はブリーフケースから厚い紙の束を取り出した。私たちは耳を傾けた。最初のページに書かれていたのは「戦争を禁止する」という一文だけだった。「それだけ?」と私たちは尋ねた。

▼「他に何がいるのか?」と彼は言った……。

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