安倍元首相の要らぬ“置き土産”。日本という国を葬る6つの「負の遺産」

 

2.東京五輪汚職

それに続く憂鬱は東京五輪汚職で、その主役である高橋治之=元東京五輪組織委員会理事と彼の弟でかつて世界を股にかけた不動産バブル紳士として名を馳せた故高橋治則=EIE社長とは、西崎伸彦「高橋治之・治則『バブル兄弟』の虚栄」(文藝春秋22年10月号)によれば、安倍晋太郎と特別に親しい関係にあり、秘書の晋三のことも〔特に治則は〕その頃から「可愛がって……『経済のことを何も知らないからな』と言っていろいろと教えてあげて」いたという。その高橋兄弟との長い付き合いから、やがて安倍は治之の操り人形となって、2013年9月のIOC総会で「フクシマはアンダー・コントロール」と全世界に向かって大嘘つき演説を行なって五輪誘致の推進役となり、これを取り仕切る最高責任者に自分のボスの森喜朗=元首相を据えた。

彼が16年8月のリオデジャネイロ五輪閉会式で、スーパーマリオが地球の裏側からやってきたという幼稚極まりない電通仕切りの脚本に乗ってバカな役目を演じたことは、多くの人々にとって今も国辱モノとして記憶されていることだろう。

東京五輪誘致が金塗れであることは、すでにさんざん報道されてきたことで、私の手元に残る資料を1つだけ挙げれば、2020年3月31日付の「東京五輪招致で組織委理事に約9億円/汚職疑惑の人物にロビー活動も」と題したロイター記事で、そこには次のような要点が含まれていた。

▼ロイターが入手した東京五輪招致委員会の銀行口座の取引明細証明書には、招致活動の推進やそのための協力依頼に費やした資金の取引が3,000件以上記載されていた。その中で最も多額の資金を受け取っていたのは、電通の元専務で現在は東京五輪組織委員会理事を務める高橋治之で、口座記録によると彼にはおよそ8.9億円が払われていた。

▼高橋は、世界陸連(IAAF)元会長でIOC委員だったラミン・ディアクを含む委員に対し、東京五輪招致のためにロビー活動などをしていたと語った。ディアクは、五輪の開催地選定に影響力を持つ実力者だった。彼は16年のリオ五輪の招致で票を集める見返りに200万ドルの賄賂を受け取ったなどとして、現在もフランス検察当局の調べを受けている。

▼仏検察は、ディアク父子を東京五輪の招致をめぐる疑惑でも収賄側として捜査している。この事件で贈賄側として同検察が調べているのは、JOCの竹田恒和前会長(招致委理事長)で、シンガポールのコンサルタントを通じディアク父子に約2.3億円を支払って東京への招致を勝ち取ったとの疑いがかかっている。竹田はJOCとIOCの役職を昨年辞任、疑惑については明確に否定しており、支払った金額は正当な招致活動の費用であったと主張している。

▼ロイターの取材により、招致委員会は森喜朗元首相が代表理事・会長を務める非営利団体「一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」にも約1億4,500万円を支払っていることも明らかになった……。

こうしたことは、すでに2年前までに繰り返し報道されてきたことだが、実際にコロナ禍の下で開催が強行され、それはそれでそれなりの高揚をもたらす中で、ほとんどの人々は忘れ去ろうとしていた。しかし検察はこれほどまでにネタがポロポロと溢れ出てくるような美味しい案件を忘れてはおらず、安倍という重石が取れたと見るや直ちに事件として着手したのである。したがって、これが今後、高橋個人が複数のスポンサー企業から賄賂を掻き集めていたというみみっちい話で終わるのか、それともロイター記事が暗示しているように、森元首相を巨魁とする政官財界腐食やIOCの度を越した金権体質の切開にまで進むのかは予断は許さないが、いずれにしてもこれまた国民に否応なく押し付けられた安倍の負の遺産なのである。

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