安倍元首相の要らぬ“置き土産”。日本という国を葬る6つの「負の遺産」

 

5.アベノミクスの呪縛

アベノミクスも、鳴り物入りのお祭り騒ぎと共に始まったものの、10年を経て何らまともな総括も行われず、黒田東彦日銀総裁初め誰も責任を厳しく問われることなく、円安不況だけを残して裏の倉庫に放り込まれようとしている。

アベノミクスが始まった2013年に日本の名目GDPはドルベースで5兆2,107億ドルだったが、2020年には5兆397億ドルで、端的な話、これがあのバカ騒ぎの結末である。円ベースでは508.7兆円から537.2兆円と微増しているが、ドルで見ないと世界GDPに占めるシェアが6.7%から5.9%へとズルズル後退しつつある姿が見えない。

どうしてこんなことになったのかと言えば、第1に、状況認識と目標設定が完全に見当が狂っていた。日本が陥っているのは「デフレ」、ということは景気循環の中でモノの量が多いのに対しカネの量が少ないという現象が起きているのだから、日銀総裁の首をすげ替えてでも「異次元金融緩和」に踏み切り、カネをジャブジャブにすれば景気は良くなり、再び成長軌道に乗せることが出来ると考えた。しかしすでに2010年に藻谷浩介が『デフレの正体』(角川新書)で正しく指摘していたように、日本は世界に先駆けて「人口減少社会」に突入していて、モノの需要そのものが減少していくという構造問題に直面しているのだから、いくらカネを増やしても誰も要らないモノは買わない。それでもカネを増やしてインフレ気味に誘導すればインフレ期待〔という一種の勘違い〕で人々は消費に向かうのではないかと言われたが、私はそんなものは「ブードゥー(おまじない)経済学」で、人々を騙してまで「まだ成長が可能だ」と錯覚させようとしても無理だと、アベノミクスが始まる前から批判していた。

第2に、そのカネをジャブジャブにする方法論を丸っきり間違えていた。日銀がマネタリーベースを増やせばたちまち世の中にカネが溢れると思ったのが大間違いで、実際には、日銀はヘリコプターでお札を空中散布する訳にはいかないので市中の銀行が保有する国債を買い上げ、その代金を銀行が日銀内に置いている「日銀当座預金」口座に振り込む。その口座は無金利ないしマイナス金利なので銀行はそこからカネを引き出して投融資に回すはずだったのだが、何しろモノが余り需要がないのだから銀行も資金需要がない。主要な貸出先である大企業も、需要がないから設備投資をせず、また仮にしようと思っても分厚い内部留保があるので銀行に借りる必要がない。そうすると銀行は、日銀当座預金からいっ時カネを引き出してもそれでまた国債を買って日銀に買い取られるのを待つだけなので、結局、いくらマネタリーベースを増やしても日銀構内で糞詰まりを起こしてしまう。下表が本誌がしばしば用いてきたその一覧図である。

         2013年3月 2022年9月 増加分

マネタリーベース 134.7兆円 644.0兆円 +509.3( 4.8倍)
日銀当座預金残高  47.4    540.7   +493.3(11.4倍)
日銀国債保有残高  58.1    543.1   +485.0( 9.4倍)
企業内部留保   304.5   516.8   +212.3( 1.7倍)

マネタリーベースは500兆円以上も増えたのに、その分のほぼそっくりに当たる493兆円が日銀当座預金となって残って構内から出て行かない。日銀の国債保有高は9倍以上にも増えて国債全体の50%超を日銀が抱え込んでいる形である。

ここまで遡って原理的なところからアベノミクスの誤りを正さない限り、「新しい資本主義」も何もあったものではないが、安倍は知らんぷりのままいなくなり、岸田は何も深い考えがないままその誤りの呪縛の下で足掻くばかりである。

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