安倍元首相の要らぬ“置き土産”。日本という国を葬る6つの「負の遺産」

 

3.原発再稼働の暴走

上述の安倍の「アンダー・コントロール」という大嘘つきとも関連して、安倍から岸田へと受け渡されようとしているのは、原発再稼働である。

安倍のこの大嘘は、世界向けだけではなく国内向けでもあった。というのも、13年9月のこの時期、福島第一原発の現場では高濃度の放射性汚染水をいくら汲み上げても後から後から増え続け、それを急造のタンクに溜め込んでもそこからまた漏れ出していたことが判明するなど、汚染水の無間地獄と言える有様となっていた。その根本原因は、山側からこの原発敷地に1日当たり1,000トンの地下水が流入し、そのうち400トンが原発建屋に向かってくることにあるので、専門家からは敷地の外の山側全体を巨大なダムを作って言わば「元栓から止める」という方策が前々から提唱されていて、私もそれを図入りで解説したりした(小出裕章との共著『アウト・オブ・コントロール』=花伝社、14年刊)。ところがそれは余りにコストがかかりすぎるということで、政府=東電が考え出したのは原発建屋の周りの地下に「凍土壁」を作るという技術的にもかなり怪しい案で、俄仕立ての弥縫策と批判されていた。その状況での安倍演説だったのである。

これを裏で操っていたのは、経産省原子力マフィアから官邸入りした安倍の超側近の今井尚哉総理秘書官で、彼の狙いは五輪招致を利用してフクシマはもう終わったかの印象を国内的にも作り出して拒否反応を取り除き、一日も早く原発再稼働に漕ぎ着けて東京電力の経営を救済することにあった。とはいえ、その安倍政権も次の菅義偉政権も明確な原発推進策を打ち出せずにきて、それはなぜかというと3・11当事者である菅直人政権以来のへっぴり腰の「脱原発宣言」――すなわち「将来的には原子力に依存しない社会を目指して可能な限り依存度を低減する」という政府方針に縛られて来たからである。

この政府方針の下では、(1)原発の新増設は困難であり、(2)寿命が来たものは更新することなく廃炉とし、(3)再稼働も出来るだけ避けるようにしなければならない。これに最初の修正を加えたのは、自民党のトロイの馬だった野田佳彦政権で、上記(2)の「寿命」を「40年」と明記する一方、1回に限り20年延長して構わないとする「原子炉等規制法」改正案を出し、それが第2次安倍政権下の13年7月になって成立した。

ところが岸田政権になると、多くの国民は気が付いていないかもしれないが、まず6月の「骨太の方針」の中で、上記の(1)(2)(3)の意味合いを含んだ「可能な限り依存度を低減する」という文言そのものを廃棄し「原子力を最大限活用する」という表現に置き換えた。それが通ったとなると早速、岸田は7月の参院選後の会見で「今冬は電力需給の逼迫が予想されるので、最大9基の原発を稼働するよう経産相に指示した」と語った。この裏には、今では原発メーカー=三菱重工業の顧問に収まっている今井尚哉の暗躍があると言われている。

こうして、3・11後にもかかわらず原発文化を必ず復興させるという原子力マフィアの見果てぬ夢は、安倍から岸田に託されようとしている。

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