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賭けに出た高市早苗。報道番組で岸田首相の「箝口令」を暴露した真の思惑

2021年に出馬した自民党総裁選では安倍元首相の後ろ盾を得て善戦するも、岸田文雄氏に破れ日本初の女性首相の座を逃した高市早苗氏。そんな高市氏の報道番組での「謀反」とも取れる言動が話題となっています。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、岸田首相から口が裂けても言わぬよう厳命されていたのにもかかわらず、高市氏が番組内で暴露した「機密事項」の内容を紹介。さらになぜ高市氏が今、このような行動に出たのかについて考察しています。

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中国に関する首相の箝口令を暴露。高市大臣の謀反か?

高市早苗・経済安全保障担当大臣は謀反を起こしたのだろうか。大臣就任時に岸田首相から「口が裂けても言うな」と釘を刺されていた中国がらみの話を“暴露”したのである。

高市氏が生出演した『BSフジLIVEプライムニュース』(9月28日)で、「セキュリティ・クリアランス」に話題が及んだときのこと。高市氏はこう語った。

「大臣に就任した日に言われたのは、『中国』という言葉を出さないでくれというのと、来年の通常国会にセキュリティー・クリアランスを入れた経済安全保障推進法を提出するとは口が裂けても言わないでくれと言われました」

今年8月10日の内閣改造で、経済安全保障担当大臣として官邸に呼ばれたさい、岸田首相がそう語ったという。首相と就任ホヤホヤの大臣の間で交わされた密談である。それをぶちまけるというのは、只事ではない。

経済安全保障推進法は、半導体など重要物資のサプライチェーンを確保し、国力を左右する先端技術や特許を守るため政府の関与を強めるのが目的で、中国の脅威にアメリカと足並みをそろえて対抗することを念頭に置いている。

今年5月11日に成立した法律だが、セキュリティ・クリアランスが盛り込まれておらず、経済界などから導入を求める声が出ている。セキュリティ・クリアランスとは、スパイ行為を防ぐため、個人の適性を評価し、機密情報にアクセスする資格を与える制度だ。当然、身辺調査は欠かせず、個人情報保護の観点から慎重論が根強い。

新閣僚の呼び込みで官邸に赴いた高市氏に対し、ごく短い時間のうちに岸田首相が示した留意点を、高市氏はなぜテレビで明らかにしてしまったのだろうか。その場面を今一度、振り返ってみよう。

番組の反町理キャスターのこの質問が導火線になった。

「セキュリティ・クリアランス、この話、たとえば法案として国会に提出するメドって、来年の通常国会をめざしているんですか、この秋は間に合わないですか」

高市氏は党政調会長だった今年2月、同法に関連し「外国人研究者のスクリーニングは第2弾でやります。これを入れると今国会では通りませんから」と月刊誌の対談で発言。8月17日には、「日本の学術機関の優れた民生用技術が外国の先端兵器に流用されている現状を改善するべく、外国人研究者のセキュリティ・クリアランスを法改正で実現したく、経済安全保障担当大臣として頑張ります」とTwitterに投稿していた。

反町氏の質問に対し高市氏は「この秋は全然間に合わないです。今どういう場合にセキュリティ・クリアランスが必要かってことを洗い出ししてます」と答えたのだが、それだけではおさまらず、異例の“告白”におよんだのだ。

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驚いたのは反町キャスターだ。苦笑しながら「それ…ありがとうございます。年明け早々くらいにもう一回」と言うのをさえぎり、高市氏は笑顔を絶やさずに続けた。

「サイバーセキュリティーも経済安全保障の一環だから、サイバーセキュリティーの必要な法改正も私を担当にしてくださいと総理に申し上げて断られてしまいましたので、今、サイバーセキュリティーの担当ではございません。ただセキュリティー・クリアランスはどうしても法改正をして出したいというのが私の強い希望です。総務大臣と違って内閣府の長は内閣総理大臣、自分が担当大臣だから法律案を書きなさいと役所の人に命令する権限は私にはありません。まずは岸田総理の説得からかかりたいと思います」

岸田首相への不満というか、いわば“恨みつらみ”が相当たまっているように筆者には聞こえる。内閣改造後の8月14日、高市氏は以下のようにツイートしている。


組閣前夜に岸田総理から入閣要請のお電話を頂いた時には、優秀な小林鷹之大臣の留任をお願いするとともに、21年前の掲載誌についても報告を致しました。翌日は入閣の変更が無かったことに戸惑い、今も辛い気持ちで一杯です。

統一教会系の月刊誌に対談記事が載ったことがあると報告するとともに、岸田首相の入閣要請をやんわり断ったが、聞き入れてもらえなかったという。それはそうだろう。大臣といっても、内閣府の特命担当大臣(経済安全保障)である。「役所の人に命令する権限は私にはありません」と高市氏自身がひがむように、党政調会長から見れば明らかに「降格」だ。

岸田首相が、総裁選で争った高市氏を政調会長に起用したのは、高市氏の後ろ盾である安倍元首相に忖度したからだった。その安倍元首相が亡くなったとたん、政策的に波長が合わない高市氏を、党三役から外し、得意分野だからという理由で「経済安全保障」担当に“閉じ込め”たのだ。岸田政権の目玉政策の担当とはいえ、高市氏とすれば、納得できなかっただろう。

複雑な思いを抱いたまま、経済安全保障担当大臣というポストを受け入れ、官邸で岸田首相と向き合った。そのさい、高市氏のことだから「担当大臣になる以上は、セキュリティ・クリアランスを入れた法改正を来年の通常国会で実現したい」と希望を語ったにちがいない。それに対して岸田首相は、口が裂けてもそのことは言わないよう、「中国」という言葉を出さないよう命じたということなのだろう。

苛立った高市氏は、中国の顔色をうかがう岸田首相の弱腰な姿勢を、いつか世間に晒してやろうと思ったかもしれない。そして、統一教会問題が噴出するなか、国葬を強行し、政権が弱体化した今がそのチャンスだと判断したのではないか。

高市氏は、2012年の自民党総裁選に安倍氏が出馬し、清和会会長の町村信孝氏と戦ったさい、安倍氏を応援するために、清和会を退会したほどの安倍シンパだ。昨年の総裁選では、再々登板に向けて出馬するよう安倍氏に要請したが、叶わなかったため、自ら出馬を決意、安倍氏の全面支援をとりつけた。もちろん、「日本初の女性首相」になりたかったからである。

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安倍氏は事務所にこもり、高市氏への支援を求めて清和会の若手らに自ら電話をかけまくった。「裏切ったら、こちらから縁を切る」と言うほど、強い働きかけだった。高市氏が第1回投票で岸田氏、河野氏に伍する票を集められたのは、そのおかげだ。

決選投票では、高市氏の票がどっさり岸田氏にまわった。だが、岸田氏は安倍氏に大きな借りができたとは思っても、必ずしも高市氏に恩義を感じたわけではないだろう。

しかし高市氏は、岸田氏に対してあくまで強気である。政調会長に就任後、忖度なしの政治的アピールを繰り広げた。韓国が反発するのもかまわず「佐渡島の金山」の世界文化遺産推薦を政府に迫ったり、岸田首相に北京冬季オリンピックへの外交的ボイコットを直談判したこともあった。

公明党と茂木幹事長との間で新型コロナ対策の現金給付の話が進み、自分が蚊帳の外に置かれていると感じるや、官邸に乗り込み「党の政策は政調を通すと党則に書いてある。守ってもらわないと困ります」と岸田首相に怒りをぶつけたといわれる。こういう姿勢に茂木幹事長はもちろん、麻生副総裁も眉をひそめていたと聞く。

昨年の総裁選以降、自民党内では、高市氏の清和会復帰が囁かれていた。そうなることを高市氏は熱望していたはずだ。安倍氏が率いる清和会から首相候補として再び総裁選に出たいと思っていただろう。

だが清和会には、稲田朋美氏、下村博文氏、萩生田光一氏といった「総理候補」を自任する面々がひかえている。“招かれざる客”の入会に反対する会員を説得して、そこに導いてくれるはずだった安倍元首相は、突然、帰らぬ人となった。高市氏の悲嘆がいかばかりだったかは、想像に難くない。今のままでは党内で孤立する恐れすらある。

そんな状況の中から、高市氏は再び立ち上がり、勝負に出た。それが、あの“暴露劇”だった。岸田政権の対中宥和姿勢を浮かび上がらせ、党内の親中派との闘争を仕掛けることで、右派を引き寄せる作戦とみえる。

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岸田首相が頼りなく、官邸スタッフが右往左往して機能不全に陥っているのは事実だ。だからといって、閣僚が、弱り切った首相の足元を見透かすように、約束を反故にしてしまうのは、いかがなものか。倒閣の機運を呼び起こし、あわよくばその旗頭たらんとする動きと受け止められても仕方がないだろう。

閣内から反乱めいた動きが出てくることじたい、政権の末期症状である。岸田首相が批判覚悟で長男を政務の首相秘書官に起用したことにも、心強い味方が不足している孤独な現状が垣間見える。“暴露”の真意を高市氏に問いただすだけの覇気は、もはや岸田首相にはないかもしれない。

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image by: Instagram(takaichi_sanae

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