“裸の王様”と化した米国の大誤算。従うのは日本だけという情けない現実

 

矛盾に満ちた2国間関係

米・サウジ関係は「特殊な同盟関係」と呼ばれてきた。1933年にサウジ王国から石油採掘権を与えられた米スタンダード石油が、まもなく世界最大級の埋蔵量を持つ油田を発見し、ここが米国の豊かな文明を支えるに不可欠の石油供給源となり、ルーズベルト大統領が「サウジ防衛は米国防衛にとって死活的に重要」と宣言。以来、サウジが石油を供給しそれで得たドルで最新鋭の米国製兵器をいくらでも買い付けるという米国にとって二重のメリットのある好循環が形作られて、それは米国が後々、世界民主主義を守る十字軍の司令官であるかに振る舞うようになっても、このサウジの最悪クラスの中世的宗教独裁体制は批判の対象外とされてきた。

米国が自分の都合のいい時と場所で「民主主義」を口にすることの欺瞞性を端的に表してきたのがサウジとの石油と武器による汚い癒着に他ならず、だから7月にバイデンが同国を訪問すると言い出した際に、議会の民主党やマスコミなどが「2018年のジャマル・カショギ記者の殺害を命令したとされるムハンマド皇太子に会うべきかどうか」と大騒ぎしたのは噴飯物だった。米・サウジ関係の90年間にも及ぶ根底的な欺瞞性には目を瞑っておいて、ごく最近の残念な事件だけを取り上げて「民主vs.独裁」図式を際立たせようというのは浅薄な演出プランで、だからバイデンがおずおずとこの問題を持ち出した時に皇太子は、「このような事件は世界のどこでも起こりうる。米国もイラクのアブグレイブ刑務所の被収容者虐待事件をはじめいろいろ過ちを犯してきたではないか」「米国が自分の価値観を他国に無理強いしようとするのは逆効果で、イラクでもアフガニスタンでもそれで失敗したのではなかったか」と、余裕綽々の受け答えをした。

この側面だけを見ても、バイデンはサウジに恥をかきに行ったも同然だった。

この記事の著者・高野孟さんのメルマガ

初月無料で読む

 

print
いま読まれてます

  • “裸の王様”と化した米国の大誤算。従うのは日本だけという情けない現実
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け