実は、中国がASEANを意識して対立の解消と全方位の立ち位置を模索していると書いたのは、その中国の姿勢がASEANとの関係を強化する上で最も受け入れられやすいという事情があるためだ。
ASEANは周知のように、軍事同盟だった組織を加盟国が中心となり1967年から経済を中心とした組織へ移行してきた経緯がある。その性格はいまも引き継がれ、対立よりも経済発展を優先する傾向が強い。
この性質は昨今のアメリカと実は相性が悪い。米中対立を積極的に域内に持ち込もうとする行為を警戒するからだ。この点では中国のような経済協力以外の要素をできるだけ持ち込もうとしない国の方がストレスは少ないといえるだろう。またASEANは相互内政不干渉も重視しているため、この点でも中国との親和性が高いのである。
アメリカはバラク・オバマ大統領の2期目から明らかなアジアシフトを掲げ、中東地域に向けていた力をアジアへと振り向けた。この流れはジョー・バイデン政権の下でさらに強化されている。その象徴がアメリカ・ASEANサミット(2022年5月12日)であり、IPEF(インド太平洋経済枠組み)の立ち上げへとつながっている。だが、いずれの動きもASEAN側の反応は芳しくない。
IPEFがASEANの国々から敬遠されていることは、このメルマガで何度も書いてきたが、アメリカ・ASEANサミットも決して成功とはいえなかった。というのもその目的が中国排除であることが露骨であったからだ。また経済発展を重視するASEANの国々に対して、そのメリットをきちんと示せなかったことも──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年1月15日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ
image by:360b/Shutterstock.com