民主主義の危機、アメリカからブラジルへと飛び火 トランプ氏の側近らが応援か
事態を受け、1日に就任したばかりのルラ・ダシルバ大統領は、
「ファシストが大統領府や議会に侵入した。我が国の歴史で前代未聞のことだ。誰であろうと、罰せなければいけない(*7)」
と厳しく非難。
今回の事態は、ブラジルの連邦議会、大統領府、最高裁の“三権”の象徴が右派のボルソナロ前大統領支持者らに襲撃されるという民主主義の危機に陥ってしまったことを意味する。
さらにボルソナロ氏陣営はアメリカのトランプ前大統領の側近と情報交換し、選挙結果発表後の対応について助言を受けていた可能性も指摘されている。
また、米紙ワシントン・ポストによると、昨年10月の大統領選挙以降、ボルソナロ氏の息子である下院議員が米フロリダ州のトランプ氏の邸宅を訪問。
トランプ氏の側近と連絡を取り、元首席戦略官であったバノン氏とは、選挙結果への異議申し立ての効力などについても協議していた(*8)。BBCによると、襲撃の様子は世界に流れた8日以降も、バノン氏は、
「ルラ(新大統領)は選挙結果を盗んだ。ブラジル人は理解している」
とSNSに投稿。暴徒を「自由の戦士」と称賛した(*9)。
アメリカはどうする? 入国ビザの効力が争点に
今後の焦点は、アメリカに滞在するボルソナロ氏の“処遇”に移る。ボルソナロ氏は現在、米国フロリダ州に滞在。
米民主党のホアキン・カストロ議員は、ボルソナロ氏はブラジル国内でテロリズムをあおった独裁主義者だと批判し、ブラジルに送還すべきだと主張(*10)。同様の声は民主党内でも上がっている。
一方、ボルソナロ氏も、バイデン氏とは良好な関係とは言えない。また大統領退任時に訴追免責の権利を失い、ブラジル本国では危うい立場にある(*11)。
争点は入国ビザの効力だ。米国領事当局者は、ボルソナロ氏が国家元首に発給される「A-1ビザ」で入国したことはほぼ間違いないとした(*12)。
通常、A-1ビザは受給者が退任すると失効する。しかし国家元首のビザ失効手続きをした経験を持つ元米上級外交官は、ボルソナロ氏がA-1ビザで入国したと想定した上で、同氏が大統領任期終了前に米国に入国しているため、A-1ビザがまだ有効なのではないかとみている。
元上級外交官によると、A-1ビザは米国滞在期間の期限を設けていない。
「われわれは未知の領域にいる。彼がいつまで滞在するつもりか、誰にもわからない(*13)」
とした。
■引用・参考文献
(*1)「ブラジル連邦議会襲撃」共同 西日本新聞 2023年1月10日付朝刊
(*2)共同 2023年1月10日
(*3)玉川透「大統領選で勢い急上昇『ブラジルのトランプ』ボルソナロとは何者なのか」朝日新聞 GLOBE+ 2018年10月26日
(*4)玉川透 2018年10月26日
(*5)玉川透 2018年10月26日
(*6)玉川透 2018年10月26日
(*7)「ブラジル連邦議会を襲撃、前大統領支持者ら200人逮捕…新大統領は『我が国の歴史で前代未聞』」読売新聞オンライン 2023年1月9日
(*8)共同、2023年1月10日
(*9)共同、2023年1月10日
(*10)「ブラジル議会襲撃、米政権に新たな難題 ボルソナロ氏処遇が焦点」Reuters 2022年1月9日
(*11)Reuters 2022年1月9日
(*12)Reuters 2022年1月9日
(*13)Reuters 2022年1月9日
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2023年1月14日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
この記事の著者・伊東森さんのメルマガ
初月無料購読ですぐ読める! 1月配信済みバックナンバー
※2023年1月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、1月分のメルマガがすべてすぐに届きます。
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月15日(日)号 岸田首相“唯一の”レガシー 原発再活用の虚構 「原発回帰は歴代政権が手が出せなかった」 原発燃料、結局はロシア頼み(1/15)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月14日(土)号 米国下院議長 投票15回目でようやく決まる マッカーシー議員とは? 下院議長とは? 「フリーダム・コーカス(自由議連)」が造反(1/14)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月8日(日)号 映画版「鬼滅の刃」歴代興行収入1位の影で危惧される日本映画界の未来 ~2~ 東宝一強体制の理由 しかし国際市場では通用せず(1/8)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月7日(土)号 岸田首相、防衛増税前の「解散」発言が波紋 萩生田氏の口車に乗せられて? 自らの首を絞めるのか(1/7)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月1日(日)号 中国、「ゼロコロナ」対策転換で感染爆発 若者の反発恐れ、方針転換 今後、死者149万人との予測も(1/1)
<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>
※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月31日(土)号 映画「すずめの戸締り」にみる日本社会の戸締り ”誰が開きっぱなし”の扉を閉めるのか?(12/31)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月25日(日)号 国民民主党、連立入り? 自民と国民、共鳴する”民社党”の遺伝子 統一教会との関係も 公明党はどうなる? 創価学会の集票力懸念(12/25)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月24日(土)号ディズニー&ジェームズ・キャメロンVS和歌山・太地町&二階俊博 映画「アバター」続編で対立の火ぶたが切って落とされる なぜ日本はイルカ漁に固執するのか? 結局は”利権”目当てか?(12/24)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月18日(日)号 防衛省が”ステマ”工作研究? 自称インフルエンサー、所詮は利用される運命(12/18)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月17日(土)号 どうなる? サッカーW杯2026年大会 48カ国が参加 グループステージは3試合から2試合へ 高騰する放映権料 もはや“有料”放送が当たり前?(12/17)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月11日(日)号 旧統一教会と地方議員の”接点”明らかに 一方、障害者支援施設SANCYO/TANOSHIKAの嘉村裕太は、精神障害者に対し、「政治に文句をいうなら統一教会の支援を受けて政治家に立候補せよ」と圧力 福岡県大川市長倉重良一・久留米市長原口新五も同調(12/11)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月10日(土)号 どうなる、岸田首相の行く末は? 退陣? 早くても年内まで? 「検討使」の裏で着々と右翼政策は実行 自民、国民民主と連立?(12/10)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月4日(日)号 防衛費増額 有識者会議にメディア関係者 法人税増税盛り込まず 自民党とマスコミ(12/4)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月3日(土)号 政治問題化するサッカーW杯 なぜカタールへの招致が決まったのか? カタールと日本 カタールで起きていることは、未来の私たち 地球温暖化とスポーツ(12/3)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月27日(月)号(11/27)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月26日(土)号(11/26)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月20日(日)号(11/20)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月19日(土)号(11/19)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月13日(日)号(11/13)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月12日(土)号(11/12)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月6日(日)号(11/6)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月5日(土)号(11/5)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月30日(土)号(10/30)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月29日(土)号(10/29)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月23日(日)号(10/23)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月22日(土)号(10/22)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月16日(日)号(10/16)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月15日(土)号(10/15)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月9日(日)号(10/9)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月8日(土)号(10/8)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月2日(日)号(10/2)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月1日(土)号(10/1)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月25日(日)号(9/25)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月24日(土)号(9/24)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月18日(日)号(9/18)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月17日(土)号(9/17)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月11日(日)号(9/11)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月10日(土)号(9/10)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月4日(日)号(9/4)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月3日(土)号(9/3)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月28日(日)号(8/28)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月27日(土)号(8/27)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月21日(日)号(8/21)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月20日(土)号(8/20)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月14日(日)号(8/14)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月13日(土)号(8/13)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月7日(日)号(8/7)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月5日(土)号(8/6)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月31日(日)号(7/31)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月30日(土)号(7/30)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月24日(日)号(7/24)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月23日(土)号(7/23)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月17日(日)号(7/17)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月16日(土)号(7/16)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月10日(日)号(7/10)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月9日(土)号(7/9)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月3日(日)号(7/3)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月2日(土)号(7/2)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月26日(日)号(6/26)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月25日(土)号(6/25)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月19日(日)号(6/19)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月18日号(土)(6/18)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月12日号(6/12)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月11日号(6/11)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月5日号(6/5)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月4日号(6/4)
image by: Salty View / Shutterstock.com