元祖シンガーソングライター、個性派俳優、そして小説家。異才・荒木一郎が明かす映画テレビ黄金時代の知られざる「素顔」

2023.01.23
by gyouza(まぐまぐ編集部)
 

人生成功の秘訣は「価値観」と「人間関係」、そして「様子を見るな」

──つまり、荒木さんが成功したのは「自分の価値観を大事にする」「人間関係を大事にする」ということを続けてきた結果だと。

荒木:そうですね、僕は「自分の中の価値観でやりたいと思ったことをやる」という生き方を、この本に書いた時代のあともずっと続けてきたわけです。その代わり衝突も多いですよ。でも、ぶつかってもぶつかっても同じことを繰り返していく。そのことで成功をおさめてきて、結果こういう家に住むことが出来ているわけ。だから、自分は絶対に貧乏になっちゃダメだって思ってたんだよ。そうでないと、人に何か意見することが出来ないから。正しいことを言っているのに貧乏だったら話にならないじゃないですか。

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──たしかに、それは説得力がありますね。

荒木:僕の理論はとてもシンプルだと思うんですよ。「人がいなければ自分が幸せになることは出来ない」、ただそれだけ。「人との繋がりが大事なんだ」ということを、どこかで教育しないとダメだと思いますね。僕の場合、そういうことを習う場所があったわけじゃないから、必ずどこかで衝突することになるんだけど。こういう自分の経験を誰かに教えてあげたいと思いますね。いつも本音でぶつかってきたけど、そのことで繋がった人間関係をいっぱい持っている。だから、何か仕事をする時に、いつでも何か出来るという。普通の人は、本音でぶつかることはせずに、やりくり算段、自分のことしか考えていないから「様子を見る」ようなことばかりになる。それをやっちゃうと人間がダメになるんだよ。なぜか「様子を見る」ということが賢いと勘違いしているんだよね。

──相手の顔色をうかがうのは、相手のことを考えているというよりも、自分の「保身」のためだからですよね。

荒木:だから「様子は見ない」こと。たとえば、小さな子どもっていうのは何でも見せようと思っていろいろな物を大人に持っていくでしょ? 最初はわからないから、変なものや相手が嫌いなものを持っていったりして嫌がられたりするんだけど。それが段々と成長するに従って「あ、これが本当に人が喜ぶ物なんだな」ということが経験でわかってくる。そういう風に自然体で教育していけば、いろいろな経験がすべて生きてくると思うんだよね。

──本日は『空に星が〜』の創作秘話から現代教育論、そして人生成功の秘訣まで、いろいろ貴重なお話をいただき感謝申し上げます。日本の芸能界の裏側を知るだけでなく、荒木一郎さんという人間が1960年代という日本の高度経済成長期でどのように生き、何を考え、どう動いてきたのか、そしてなぜ成功をおさめることができたのか、その一端を直接ご本人の口からお伺いすることができて光栄でした。まだ『空に星があるように 小説 荒木一郎』をお手に取っていない方は、ぜひ人間・荒木一郎の生き様を、この本の行間から感じていただきたいと思います。ありがとうございました。


【取材を終えて】

「荒木一郎」は、歌手や俳優、小説家である以前に「ひとりの人間」である。それは、ただの人間(ヒューマンビーイング、ホモサピエンス)という意味ではない。あらゆることに忖度をせず、自分の頭で考え、感じ、思ったことを行動に移せる「本当の意味で自分を生きている人間」という意味だ。

あるときは大物脚本家に楯突き、あるときは本音でぶつかって口論し、あるときは自分の直感や価値観を信じて新しい試みにチャレンジする。その生き方は齢79となった現在でもまったく変わらない。

私たちが本来持っていた、しかし何処かへ置いてきてしまったものを変わらず持ち続けているからこそ、彼の音楽や演技、そして私小説の中にいる「荒木一郎」に憧れ続けるのかもしれない。

今回のインタビューを終えて、時代を経ても変わらない荒木一郎氏の強烈な個性は、あらゆる忖度がはたらく今の時代だからこそ、なお一層輝いて見えるような気がした。(MAG2 NEWS編集部gyouza)

 

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愛が消えるとき、歌が生まれた。

歌手、俳優、そして作家。多彩な才能を持つ荒木一郎が78歳にして四半世紀ぶりに送り出したのは、自らの代表曲「空に星があるように」を冠した大河青春小説である。60年代の映画・テレビ界を舞台に、荒木自身の彷徨する魂が躍動的な筆致で描かれる。

吉永小百合、岩下志麻、十朱幸代、大原麗子・・・同時代に輝いた女優たちとの美しい思い出の数々にはじまり、伝説のジャズバー「ありんこ」での不思議な交遊録、名曲「空に星があるように」誕生の秘密、「日本春歌考」ほか映画出演秘話など逸話が続々と披露される。芸能界の黄金時代を背景に、自らの例外的な魂の軌跡を「小説」として描き切った画期的作品。

空に星があるように 小説 荒木一郎(小学館刊)

定価 3300円(税込)
発売日 2022.10.28

image by: MAG2 NEWS編集部

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