元祖シンガーソングライター、個性派俳優、そして小説家。異才・荒木一郎が明かす映画テレビ黄金時代の知られざる「素顔」

2023.01.23
by gyouza(まぐまぐ編集部)
 

自分には「職業」がない。ただ好きなことをやってきただけ

──荒木さんは作詞・作曲・歌唱を一人でやるという「日本のシンガーソングライターの草分け」だったわけですが、『空に星が〜』の中でも、たまたま音楽をやることになったという経緯を書かれていましたよね。森永製菓の部長から「あの曲を聴かせてくれ」と言われて、何度も演奏しているうちにラジオ番組を持つことになり、そのうち歌手デビューすることになって、60万枚も売れた大ヒット曲「空に星があるように」(1966年、ビクター)が生まれたというエピソードは本当に感動ものでした。最初から歌手になろう、シンガーソングライターになろうとしていた訳ではなかったのに、あれだけのヒット曲が生まれた時代というのは夢がありますよね。

荒木:音楽は好きで、もともと趣味でやっていたんですよ。でもそれを商売にしようなんて思っていなかったんです。俳優やったり音楽やったりしてるから、よく「職業は?」って聞かれるんだけど、もともと「職業」だと思ってやっていた感覚が全然ないんですね。普通は、高校に通って成績が良ければ大学に行くというコースに進むじゃないですか。僕の場合、高校ではそれをまったく否定する生き方をしてきたわけ。やっぱり「自分を生きる」ということをしてきたから、「職業」「仕事」というより、自分の好きなことをやって生きていきたいって思うんです。

──好きなことをやってきただけで、仕事じゃない、職業じゃないんだと。

荒木:もともと「職業」という感覚とか、それをベースにしている生活が向かないんでしょうね。だから自分には「職業がない」。そもそも職業という概念がないんです。たとえば、絵を描く人だって、それが「職業」ですか?と言われたら困るでしょう。僕の場合は歌が好きだから歌っていたら仕事になったんだけど、歌を職業化しているっていう人たちもいるからね。僕にはお金を儲けようという感覚が全然ないんです。お金がいくらもらえるかじゃなくて、自分自身の価値観で決めているだけなんです。

──今まで荒木さんは、幾らもらえるかではなく、「自分の中の価値観」でやりたいことを決めてきただけなんですね。

荒木:今の教育も「自分中心」「自分が、個性が」ということばかり教えているじゃないですか。それをやっていたら人は幸せならないと思うんです。やっぱり「他人」、つまり人がいて自分がいる、という考え方を持たないといけない。そういう教育をしたほうがいいと思うんだよね。いまは要するに「言うことを聞く人間を作る」っていう教育だから。人間関係を切っていこうとする教育なんだよ。それじゃあ、どうやったって幸せにならない。人間関係よりも「お金を掴むことが幸せだ」っていう勘違いがある。

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