ダボス会議で明らかになった中国「南シナ海の対立」が消えつつある現実

 

欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、17日の講演で、「欧州の産業の力を維持するため、EU域外で得られる支援や奨励金と競争する必要がある」と対抗策を打ち出すことをにじませた。

インフレ抑制法については、フランスのエマニュエル・マクロン大統領も度々不満を口にしてきた。昨年11月30日の訪米時には、米連邦議会議員や財界関係者に招待された昼食会で、アメリカ政府の産業補助金は競合するフランスの企業に対して「極めて攻撃的だ」という批判も展開したほどだ。

そして、2つ目のポイントは、米中競争をアメリカが有利に進めるために欧州を巻き込み、中国とのデカップリングを求めていることに対する不満だ。マクロンは、ダボス会議中に受けたインタビューで「欧州はアメリカや中国のどちらかに従属する必要はない」(『環球時報』2023年1月20日)と、アメリカか中国かを選べと迫るアメリカへの不満を露わにした。

また、同じくフランスのブリュノ・ル・メール経済・財務大臣も、「アメリカは中国に反対することを求めるが、われわれはむしろ中国と関わってゆきたい」(『環球時報』2023年1月20日)と発言している。

コロナ禍や米中対立を背景に、欧州における対中感情は悪化したままだ。またロシアを警戒する国々のトップの間にも、中国を警戒する傾向は顕著だ。しかし、ドイツ、フランス、イタリアなどの有力国のトップは、中国と関係を切り離すことの非現実性を認識している。昨年11月のドイツのオラフ・ショルツ首相の訪中は、その典型的な行動だ。

半導体の輸出を制限することで中国の先端技術をコントロールしたいアメリカから協力を求められるオランダも、惑いを隠さない。バイデン政権が同盟国・友好国に求める中国とのデカップリングは、実現すれば中国には一定のダメージを与えることになる。だが、その一方で同盟国・友好国側もその返り血で大きく疲弊することは火を見るより明らかだからだ。

現在のインフレは、切っ掛けこそコロナ禍だと考えられるが、まさにそうした関係性を顕在化させた典型例だ。そしてロシアのウクライナ侵攻後の対ロ制裁によるエネルギー・食糧不足は、さらに世界のインフレを加速させてしまったのだ。この上、さらにインフレ加速させるようなデカップリングに、なぜ突き進まなければならないのか。EUがそう考えるのは、ごく自然なことだろう。

そうしたなか、中国は明らかに対米関係の修復のシグナルを発し始めた。誤解のないように書いておけば、そもそも中国は現段階でアメリカと対抗しようなどと考えたことはなく、この選択はあくまでマイナーチェンジであり──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年1月29日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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