ホンマでっか池田教授が考える「共食い」が発生する条件と合理性

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人間社会にあってはタブー中のタブーとも言える「共食い」ですが、広く生物界を見渡せば、ある種においては当たり前に起きている現象です。44年前に「共食い」に関する論文を書いたことがあると語るのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田清彦教授。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』で池田教授は、自身の論文を振り返りながら、共食いが起こるいくつかのケースを上げ、効率的な共食いと言えるのはどんな条件の場合か述べています。

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共食いの生態学について

少し前の「生物学もの知り帖」で自分の体を子に食べさせるクモの、究極の子育ての話をしたが(第178回)、これは一種の共食いである。自分と同種の個体を食べる共食いは、人間社会では殺人以上のタブーで、最もおぞましい行為とされることもあって、動物生態学の分野でも、余り脚光を浴びることはなかった。しかし、動物社会を広く見渡すと、それほど稀な現象ではないことが分かり、その重要さが見直されてきた。

私は山梨大学に就職したばかりの頃、「動物個体群とくに共食い個体群におけるエサのムダ食い」と題する論文を書いたことがある。1979年のことだから、44年も前のことだ。野生生物の個体にとって、もっとも重要なことは、繁殖して次世代を残すことである。親になれずに死んでしまった個体の摂食量は、繁殖の役に立たなかったという点ではムダ食いである。

エサが少ない個体群では、ムダ食いを少なくすることが、種の存続のためには極めて重要である。共食いをしないで、安定的な個体群を維持できればそれに越したことはないが、エサが足りなくなって、餓死する個体が出てくるような場合は、共食いによって、生き延びるのは重要な戦略になる。共食いされて死んだ個体の摂食量は、全部がムダ食いになるわけではないからだ。

たとえば、カマキリの卵嚢をケージに入れておくと、暫くすると沢山のカマキリが孵化してくる。適当にエサを与えておくと、徐々に大きくなっていくが、数がだんだん減ってくる。カマキリは同種の個体もエサと看做すため、かなりの個体は食われてしまったのである。

エサが豊富な時は共食いをせずに、エサが不足した時だけ、共食いをすればいいように思うけれども、カマキリにはそのような戦略はインプットされていないようで、動くものは何であれ食べるというやり方で、生き延びてきたのだ。

一方、特別な状況の時に限って共食いをする動物もいる。例えば、ヒョウやライオンなどは、弱って生育の見込みのない自分の子を食べてしまうことがある。これは、資源を無駄にしないという観点からは合理的な行動であるが、常に行われるわけではない。

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