自民党こそが「平和ボケ」岸田政権では有事の対応などできぬ“証拠”

2023.02.15
 

コロナ禍で自民党政権は、こうした仕組みを「使い倒す」ことができなかった。現行法にある「武器」を使い切って「もうこれ以上の手はない」ところまで頑張りきることをしなかった。分かりやすい例が「予算の使い残し」。コロナ対応を中心として政府が積み上げた多額の予算は、現在「不用額」として積み残され、その額は2020年度、21年度と2年連続で過去最大になっている。

「あらゆる手を尽くして国民の命を守る」ことをサボっておきながら、事態が自分の手に負えなくなると、今度は「政府の指示に従わない国民のせい」にしたり「危機はなかった(終わった)こと」にして「平時」の対応に戻ろうとしたりする。しまいには自分らの無策を棚に上げて「政府に権限がないから何もできない」と制度に責任を転嫁し「憲法を改正して緊急事態条項がほしい」などと言い出す。

こんな政権が防衛費を増強したとして、それで「国民を守る力」が強まるなんてことを信じろという方が無理だ。

岸田首相は昨年12月、「安保関連3文書」の閣議決定を受けた記者会見の冒頭発言で、防衛力の抜本的強化について「端的に申し上げれば、戦闘機やミサイルを購入するということ」と述べた。

買ってどうするのか。おそらくこの政権は、多額のお金で買った兵器の数々をまともに使うこともできず、無駄にするだけなのではないか。

思えば、北朝鮮からミサイルが飛んでくるたびに、そのミサイルが通り過ぎた後に全国「瞬時」警報システム(Jアラート)なるものを高らかに鳴らし、子供たちを学校の机の下に潜らせていた段階で、私たちは自民党政権の危機管理能力を、もっと真剣に疑っておくべきだったと思う。

筆者が恐れるのは「戦闘」行為そのものより、むしろ「その後」である。

岸田政権は例の「敵基地攻撃能力」(反撃能力)について「相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使」することを強調している。野党の「先制攻撃」批判をかわすのに必死なのだろう。とりあえずそれはよしとしよう。

しかし、この言葉を信じるなら、日本政府が敵基地攻撃能力を発動する時は、すなわち「敵」からの攻撃によって日本国内に甚大な被害が生じた時だということになる。ミサイルが原発に命中し、福島原発事故を上回る被害が出ているかもしれない。

その時にこの政権は、被害を受けた国民を本当に救えるのか。コロナ禍で苦しむ国民に十分な手を差し伸べられない政権が、「戦闘」で被害を受けた国民を見捨てないと、どうして言い切れるのか。

左派やリベラル系の人々が「新しい戦前が来る」と危機感を抱く気持ちはよく分かるし、間違いではないとも思う。しかし、あえて言うなら、本当にこの政権に危機感を持つべきなのは、防衛費増額を高く支持する保守系の人々の方ではないのか。

この国会で問われるべきは「安全保障政策はどうあるべきか」ではない。「この政権に危機管理を任せて本当に大丈夫なのか」ということだ。少なくとも筆者は、コロナ禍で苦しむ国民を放置して「対応はもうお手上げ」と言わんばかりに「平時」を装うような岸田政権に、国防など議論してほしくない。

image by: 首相官邸

尾中香尚里

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

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