ネコの外見が祖先とそれほど変わらず、イヌはずいぶん異なるワケ

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イヌ派かネコ派かが当たり前の話題とされるくらいペットして古くから人類とともにあるイヌとネコ。その歴史を振り返ると、大きく時代は違うもののどちらも自ら人間の近くで暮らし始め「自己家畜化」していったと考えられているようです。なぜ、いつ頃彼らが人間のそばで暮らすようになったか、それぞれの事情を詳しく解説してくれるのは、メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田教授。ネコの外見が祖先と言われる種とそれほど変わらないのに対し、イヌはずいぶん異なる姿形になった理由も教えてくれます。

野生動物の自己家畜化と人類の自己家畜化について

自己家畜化という言葉がある。家畜は、人間が利用するために飼育されている動物だが、通常は、家畜が自主的にそのような状態を選んでいるわけではない。それに対して、自己家畜化は、野生動物が自分から人間の居住場所に入り込んで、人間と共生する道を選ぶプロセスのことである。イヌやイエネコは、多少とも自己家畜化の結果誕生したと考えられている。

現行の動物分類学では、DNA分析の結果、イヌはオオカミ(別名はタイリクオオカミあるいはハイイロオオカミ Canis lupus)と同一種だと考えられている。一応、亜種名が与えられているが(Canis lupus familiaris)、亜種を決定する厳密な同一性は存在しないので、便宜的なものだと考えてよい。

以前このメルマガで、イヌとイエネコの自己家畜化について言及したが(生物学もの知り帖 第136回)、少なくとも、家畜化の始まりに当たっては、自己家畜化と言えるプロセスが存在したことは間違いないと思われる。たとえば、イヌは、2万9千年前~1万4千年前の最終氷期の終わり頃に家畜化されたが、そのきっかけは、人間の食べ残した肉を漁りに人間の居住地の周りに出現し始めたことだと言われている。

農耕が始まる前までは、人間は冬の間、狩りで獲った動物の肉を食べて暮らしていたが、ヒトはタンパク質だけを摂る食事をしていると具合が悪くなって、最終的には死んでしまう。この現象は、現在では「ウサギ飢餓」あるいは「タンパク質中毒」として知られている。タンパク質が総摂取エネルギーの35%を超えると、高アンモニア血症、高アミノ酸血症などの不具合を起こすのだ。狩猟採集生活を送っていた頃の人類も、経験的にそのことをよく知っていて、脂肪分の多い肉を好み、タンパク質だけの赤身肉は捨てていたのだ。

オオカミは、代謝メカニズムがヒトとは多少異なり、体重当たりのタンパク質摂取量が、ヒトの4倍くらい必要と言われているので、人が捨てた赤身肉はご馳走だ。自身で狩りをするより、人間の居住地の周りに落ちている肉を漁る方が遥かにコストパフォーマンスがいいので、これを覚えたオオカミは人間と共存するようになり、そのうち人間の方でも、従順なオオカミを選別して、選択的に食べ残しの肉を与えて、猟犬や番犬として家畜化を進めたのだろう。

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