一方、イエネコはヨーロッパヤマネコ(Felis silvestris)の亜種とされ(Felis silvestris catus)、ヨーロッパヤマネコの別亜種とされるリビアヤマネコ(Felis silvestris lybica)が家畜化したものだと考えられている。農耕が始まって穀物を貯蔵するようになると、ネズミが穀物を狙って住居に侵入してくる。それを追ってリビアヤマネコが人間の住居の周りに居つくようになったのが、家畜化の始まりだとの説が有力だ。
人間が野生のリビアヤマネコを飼いならしたわけではなく、自分から人間と共存を始めたようだ。従って家畜化の起源は、農耕を始めた後、1万年前より後である。
家畜になった後のイヌは、人間の用途に合わせて品種改良されたが、ネコは、近年、愛玩用に沢山の品種が作られる前までは、品種改変が進まずに、人間の住居で暮らしている野生動物と言ったほうが相応しく、その外観も祖先のリビアヤマネコとさほど違わない。
一方イヌがオオカミとずいぶん外見が異なるのは、人間に従順で、自分で獲物を狩る必要がなかったので、体つきが変わったためだ。オオカミはイヌに比べ歯が大きく顎も頑丈で、咬筋も発達して、狩りに適した形質を持っているが、人間にエサを貰って雑食性になったイヌは、これらの形質が脆弱になった。
人為選択によって家畜化すると、形態や性質はあっという間に変化するようで、たとえば、野生のキツネから従順な個体だけを選別して、交配を繰り返すと、8世代ほどで性質が寛容で従順になるばかりでなく、形態も変化して、毛色が白いまだら模様、垂れ耳、巻き尾、小さめの頭骨といった、オオカミに見られずイヌに見られる特徴が現れるようになる。(『池田清彦のやせ我慢日記』2023年2月24日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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