画期的なPC「レッツノート2in1タイプ」はいかにして誕生したか?佐々木仰氏が明かす“開発秘話”

2023.03.01
 

オブザベーションを開発に用いる最大の意義とは?

今までにない製品やサービスの便益や価値を打ち出していくバリュー・イノベーションに挑むには、それまでの製品やサービスの成功を支えてきた枠組みを超える不確実性の海に飛び込む必要がある。イノベーションとは、市場での確実な成功が保証されている活動を行うことではない。

開発メンバーは、この不確実性に対する不信感や不安、周囲への説得力の弱さをいかに乗り越えればよいのだろうか。リクルートで数々の情報誌を創刊してきた、くらたまなぶ氏がいうように、開発者とユーザーという「する側」と「される側」の関係を脱し、開発者が感情移入によってユーザーと一体化したかのような状態を生み出すことが、そこでのひとつの解決策となりそうだ(『リクルート「創刊男」の大ヒット発想術』日経ビジネスジン文庫、2006年、pp.193-197)。

なぜなら、この開発者にユーザーが憑依したかのような状態が生まれることで、「主体は活動過程に巻き込まれている一方で、いまだ主体としては現れていない」という、中動態に通じる状態が生まれる。そして、この主体と観察対象が一体化した感覚は、事前の合理性や目的の外にある新規性の高い発見を受け入れていくことを容易にする。(石井淳蔵『進化するブランド:オートポイエーシスと中動態の世界』碩学社、2022年、pp.220-223、pp. 319-322、pp. 329-333)

オブザベーションは、開発者にユーザーとの一体感をもたらす。佐々木氏は、この開発者のマインドの醸成を重要視してオブザベーションを行ってきた。

オブザベーションには、開発に役立つさまざまなデータや情報の入手という役割もある。しかし、オブザベーションを開発に用いる最大の意義は、そこで入手したデータや情報を手際よく分析し、見栄えのよいレポートをつくることではなく、開発者にユーザーとの一体感を生み出すことにあるではないか。このような問題意識のもとで佐々木氏は、オブザベーションを活用し、従前の枠組みを超えた製品やサービスの開発をサポートしている。

image by: パナソニック公式ホームページ

栗木契

プロフィール栗木契くりきけい
神戸大学大学院経営学研究科教授。1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

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