骨抜きにしたのは安倍政権。権力の犬・山中委員長の「暴走」で揺らぐ原子力規制委の信頼

 

ただ一人の地震学者退任に小躍りする原子力村の面々

2014年6月10日の衆議院議院運営委員会で質問した佐々木憲昭議員(共産)によると、田中氏が原子力産業協会の理事をつとめ、東電記念財団から報酬を受領していたことを田中氏自身が申告しており、2011年には、東電記念財団や原発メーカーの日立GEニュークリア・エナジーなどから160万円以上の報酬や寄付を受け取っていた。

また、慶應大学法学部専任講師、松浦淳介氏の研究論文によると、田中氏は2011年から14年まで一般財団法人エネルギー総合工学研究所で理事をつとめるなど原子力関係の6つの団体の委員となり、株式会社太平洋コンサルタントからは2011年に研究のための寄付金50万円を受けている。田中氏の指導を受けた学生が多数、東電や関電、日立製作所など原発関連企業に就職したことも明らかになっている。

こうして田中氏が加入し、委員会ただ一人の地震学者だった島崎氏が退任した人事は“原子力村”に大いに歓迎されたことだろう。

福島第一原発事故後の2012年9月、民主党政権が委員会を設置したさい、細野豪志原発担当相はこう強調した。「原子力村から規制委に地震学者を入れるなと圧力を受けたが、3・11の教訓を生かすために地震学の第一人者である島崎先生に無理なお願いをした」。

国民の立場から見ると、地震の専門家が入らないで、どうやって地震・津波に対する原発の安全性を確保するのかと思う。ところが、電力会社は違うようだ。地震対策は完璧にやろうと思えばきりがなく、カネがかかってしようがない。地震学者はいわば“天敵”に見えるのだろう。実際、島崎氏は委員会の中で、唯一といっていいほど厳しい審査をして、原子力村やその御用メディアの批判を浴びていた。

現委員長、山中伸介氏(原子力工学、核燃料工学)が委員になったのは、2017年9月である。初代の委員長、田中俊一氏が退任したのに伴い、新たに選任されたのだが、この人も原子力業界との関係が深かった。大阪大学大学院工学研究科の教授だった2016年度に、経産省や文科省の天下り組織である日本原子力研究開発機構(JAEA)から共同研究費として873万円を受け取るなど、3年間で4つの原子力事業者から計1,500万円近い寄付を受けている。

事務局を担う原子力規制庁は、幹部の大半が原発を推進する経産省(旧通産省)の出身者で占められている。そのうえに、委員の顔ぶれも、交替のたびに経産省寄りに変わってきているのだ。

原子力規制委員会は国家行政組織法三条に基づく、いわゆる「三条委員会」である。それを設置する環境大臣からなんら指揮監督を受けることなく意思決定ができる機関だ。

大地震や津波が想定されながら福島第一原発事故を防げなかったかつての規制機関、原子力安全保安院は経産省のもとに置かれ、原子力安全委員会は内閣府の審議会に過ぎなかったが、事故への反省に立って高い独立性を与えられたのが原子力規制委員会であったはずである。

だからこそ、その設置法で各委員には「中立公正な立場で独立して職権を行使する」という立場が保障されている。

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