原発延命という岸田政権の企てに加担した山中委員長
そして原子力規制委員会を規制行政の責任機関として一元化し、重大事故対策の強化や、原則40年・最長60年の「運転期間の制限」を設けたのが、2012年に改正された原子炉等規制法だった。
その原子炉等規制法を改正し、安全審査で長期停止した期間分を60年に上乗せして原発を生きながらえさせようという岸田政権の企みに、山中委員長は「意見を述べる事柄ではない」という姿勢で加担したのである。
昨年9月まで委員長だった更田豊志氏は規制委員会発足以来のメンバーだが、2017年1月、電力会社の原子力部門との意見交換会に一委員としてのぞんださい、運転期間延長の要望を受け、「私たちは法律で与えられた権限に基づいて仕事をしていて、勝手な法解釈をするわけにはいかない」と一蹴している。
安全規制を担う唯一の機関として独立した立場を、原子炉等規制法と規制委員会設置法によって与えられている以上、更田氏の発言は当然というほかない。
その更田氏の後任委員長である山中氏が原発運転期間の延長について「委員会が意見を述べる事柄ではない」と言い出した根拠は、法に基づくものではなく山中氏の私見にすぎない。委員会で十分な議論を経た見解でもない。
岸田政権は、原発の活用を「国の責務」とすることを盛り込んだ原子力基本法改正案も、今国会で成立させる方針だ。首席総理秘書官、嶋田隆氏(元経産事務次官)の意見が反映されているとみられるが、東電取締役も経験し“原子力村”とかかわりの深い同氏が陰で実権を握っている限り、原発回帰への動きはますます強まっていくだろう。
原発推進側の嶋田氏にとって、規制側のトップに山中氏が就いたことは、この上なく好都合であったはずだ。
規制委員会の委員長と委員は両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命し、任期は5年で再任も認められている。委員長が再任を望むなら、首相の意に従おうという動機が生まれやすいことが危惧される。
もともと高いとはいえない原子力規制委員会への信頼性は、このところの山中委員長の“暴走”によってさらに激しく揺らぎだしている。規制する側が規制される側に支配される「規制の虜」となった歴史を繰り返さないためにどうあるべきか。今のうちにきちんと議論しておかなければ、取り返しがつかないことになる。
この記事の著者・新恭さんのメルマガ
image by: 原子力規制委員会