6.目標と練習と発表
なぜ、彼女たちは精神的にも肉体的にも限界に挑戦するようなトレーニングを継続できるのでしょうか。
彼女たちには、常に克服すべき課題があります。譜面通りに演奏できるようになること。歩きながら楽器を演奏できること。コンクールのメンバーになること。ソロのパートを担当すること。
個人の目標と共に、部全体の目標もあります。コンクールの地区予選を勝ち上がり、全国大会で金賞を取ること。
その他にも、学校の授業に遅れず、試験で及第点を取り、大学進学を目指すという普通の高校生の活動もあります。
アメリカや台湾に出かけて、パレードに参加することは、ある意味でオプションの一つです。あまりにもルーティンが過酷なので、大きな舞台に立っても緊張する余裕はないでしょう。とにかく、目の前の課題を達成し、周囲の人に喜んでもらうこと。そして自分も楽しむこと。自分が楽しめないようでは、周囲の観衆も楽しめないからです。
彼女たちは、誰一人として、自分だけ目立とうとは考えていません。完全なるチームとして機能しています。そういう意味では、個人主義の欧米人には難しいかもしれません。
演奏者としてのチームと高校生としてのカワイイチーム。それが共存し、彼女たちの心が伝わってくるからこそ、観客もさわやかで清々しく、かつパワフルなエネルギーを感じることができるのだと思います。
編集後記「締めの都々逸」
「歳はとっても 涙は出るさ オレンジ染まる マーチング」
最近は、やたらにAIが話題ですが、AIには絶対できないこと。それが橘高校吹奏楽部のマーチングです。もちろん、橘高校だけが凄いのではなく、他にも演奏が上手な高校はあります。でも、踊りながら演奏するというのはオンリーワンです。その動画を観て感動する海外の人も多く、海外の声を集めている動画も沢山存在します。しかし、そこで語られる感想はやはり浅い。ということで、自分の考えをまとめてみました。
規律が凄いとか、指導者が良いのだろうとか。確かに指導者は立派な人ですが、強制されたのでは、あのレベルには達しません。彼女たちは、「もう一度やらせてください」と先生に頼みに行くのです。
練習の涙を乗り越えて、本番の笑顔が生れます。それが伝わってきて、何ともいえない感動をもたらすんですね。尊いことです。日本のJK最強です。(坂口昌章)
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