『校閲ガール』のあの人の仕事も、ChatGPTに奪われてしまうのか?

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何も工夫せずに質問すると平気で嘘を並べ立てることもあるChatGPT。現状のレベルでは、「校閲」の仕事は奪われるどころか、重要度が増すと考えるのは、朝日新聞の校閲センター長を長く務めた前田安正さんです。今回のメルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』では、新聞社の「文章チェック」の仕事が技術革新とともにどう変わってきたかを振り返り、「校閲」という少し特殊な仕事が認知されるきっかけとなった『校閲ガール』の話にも触れています。

校閲が「ことばの専門家」と呼ばれるには、長い年月が必要だった!

僕が新聞社に入った1980年代前半は、パソコンも記事データベースもありませんでした。まだ手書きの原稿とゲラ(校正刷り)を照合することを基本に、新聞の用字用語のルールに合わせていくことが中心にならざるを得ませんでした。

内容のチェックは、新聞の切り抜きを取り寄せたり縮刷版を参考にしたりしました。そのため、ひたすら新聞を読んで、必要と思われる記事の切り抜きやメモを自分でつくって準備するしかありませんでした。極端に言うと「記憶と記録」こそが、80年代のデータベースだったのです。しかもこれは、個人の力量に大きく委ねられていました。

1990年代の技術革新は、校閲のあり方をも変化させました。ワープロ出稿からパソコン出稿に移行し、手書きの原稿がなくなったのです。記者が出稿した原稿はリリースされると、関係部署にプリントアウトされます。「校正刷りと書き原稿とを照合する」作業から基本的に解放され、ファクトチェック中心の業務に移行したのです。

パソコン全能論とChatGPTの正確性

パソコンで出稿するようになると、校閲不要論が出てきました。誤字・脱字などの校正もパソコンで可能になるという「パソコン全能論」です。ファクトチェックは出稿記者が責任を持てば校閲は必要ない、という論法です。

校正支援ソフトを使えば、すべて解決できるという幻想もありました。しかし、ソフトは原稿の内容を理解することができません。文字校正・表記ルール・一部の固有名詞の指摘をするにとどまります。パソコンが自動的に直してくれるわけではありません。あくまでも判断は人がしなくてはなりません。判断するには、知識と経験が必要です。

資料を調べ文章の整合性を確認する校閲作業は、AI(人工知能)でもそう簡単にできるものではありません。自然言語の柔軟性をAIが学習するには膨大な資料を読み込む必要があります。AIが日本語の文法や間違いのパターンを覚え込んだとしても、自然言語における自由度の高い原稿の表現やその内容・文脈は理解できません。それでは校閲できません。

いま話題のChatGPTで書かれた文章が正しいという、科学的根拠を示すためにむしろ、校閲の重要性が増すのだと思います。もっとも、近い将来、AIがその限界を超えてくる可能性は否定できません。それでも判断の採否を決めるのは、最終的に人であることに変わりはないと思うのです。

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