ブレない脱原発。菅直人元首相が反対討論で「安倍晋三」の名を出した理由

2023.05.11
 

GX法案推進派が叫ぶ「脱炭素」へも痛快に反論

昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻で、世界のエネルギー情勢は一変した。これを追い風とみた原発推進派、そして岸田政権は「エネルギーの安定供給」を叫んで原発推進への大きなかじを切ろうとしている。

しかし菅氏は、ロシアのウクライナ侵攻について、全く違う方向からとらえていた。

ウクライナ戦争を受けてエネルギー事情は大きく変化しており、世界は再生可能エネルギーへのシフトを加速化しています。

 

武力攻撃の目標となる原発は、その存在自体が国家安全保障上のリスクであるとの認識も広まっています。

 

それなのに、今回の原子力基本法改正は、原子力産業への支援が「国の責務」として詳細に規定され、原発依存を固定化するものとなっています。

「エネルギー安定供給」と並んで推進派が叫ぶのが、気候変動問題への対応、すなわち「脱炭素」だ。菅氏はこれにも反論する。

確かに地球温暖化も深刻な問題で、火力発電についていつまでも頼れないことも事実です。だからこそ、再生可能エネルギーを推進すべきなのに、自民党・公明党の政権は、それを怠ってきた。そのツケを、原発を再び推進することで払おうとしている。これが、この法律(法案)の本質ではないでしょうか。

 

子どもや孫に借金を残してはいけないのと同じように、子どもや孫に原発を残してはいけないのです。

最後に菅氏は、再び太平洋戦争開戦に戻った。

くしくも37年前(1986年)の今日、4月26日は、チェルノブイリ原発事故が発生した日です。今後10年、20年の間に、天変地異や有事で、老朽原発の事故が起きたときに、子や孫から「このような法律を成立させたために(再び原発事故が起きた)、あなたがたに責任がある」と批判されても、反論できません。

 

大臣として太平洋戦争開戦に賛成した岸信介氏が、戦犯容疑で逮捕されたように、この法律(法案)に賛成する人は、未来に対する罪を犯したことになる。このように私は考えます。

そしてこう締め括った。

私は未来への責任を持ちたい。だからこそ、この法律には反対です。以上です。

菅氏の反対討論を全文紹介したのは、原発政策を議論するにあたって、福島原発事故の記憶は決して忘れることはできない、と考えたからである。

東日本大震災と福島原発事故から今年で12年。干支も一回りし、あの日亡くなった方々は十三回忌を迎えた。節目の年を超え、風化が進むことを危惧する。

菅氏も76歳。政治家人生の集大成を迎えようとしている年齢だ。あの反対討論には、単に法案への反対だけでなく、自らのあまりにも過酷な経験と、そこから得るべき知見を、日本の政治にしっかり遺しておきたいとの意思が感じられた。

私たちはあの日を風化させてはいけないのだ。先の大戦を風化させてはいけないのと同じように。

image by: 菅直人公式サイト

尾中香尚里

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

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