会社が負けました。
その理由は以下の通りです。
・この事故の直後、あるいは遅くとも乗客がタクシーを降りた後に警察や会社に連絡をしなかったことについて、会社が厳しい対応をするのは十分理解ができる
・しかし、一方で今回の事故は左後方の確認不足という比較的単純なミスによるものであった
・タクシーに接触した自転車も倒れた様子は見受けられず、接触後すぐに立ち去っていることから、今回の事故及び未報告は悪質性の高いものとまでは言えない
・警察においても、今回の事故を道交法違反と扱って点数加算をしていないことを踏まえると、警察からも重大なものとは把握されていないことがうかがわれる
・今回の接触(事故)のような一見する限り怪我がないように見える接触の相手方が無言で立ち去ってしまった場合に、警察に報告しなければならないことが頭に浮かばなかったとしても、一定程度無理からぬものがある
・よって雇い止めとすることは重過ぎるというべきである
いかがでしょうか?
冒頭のお話のように、タクシー会社という業種の特性上、交通事故について厳しい処分をするのは一定の合理性があります(これは裁判所も認めています)。
ただ、「それにしても厳し過ぎるでしょ」というのが今回の裁判です。
この「懲戒処分をどの程度にするか」は、よくご相談をいただくのですがそれを考慮する際のポイントの一つが「本人に対する加点と減点」です。
例えば、同じような程度の接触事故を2人の社員が起こしたとします。
その場合に、もし同じ程度の事故だったとしても必ずしも同じ程度の処分をするのではなく、その本人たちの今までの勤務成績や事故後の対応によって、処分の程度が変わってくるということです。
今までの勤務成績が良ければ加点(処分が軽くなる)、逆に悪ければ減点(処分が重くなる)の可能性があります。
今回の運転手本人には次のような加点のポイントがありました。
・タクシー運転手として三十数年間、人身事故を起こすことなく業務に従事し、何度も表彰されるなど、優秀なタクシー運転手であった
・(事故後に)本社面談を受けることなど会社の指示に素直に従い、注意、指導を受けた内容を記憶し、反省していることが認められる
これが加点ポイントとして裁判では考慮されました。
これが逆に
・今までも交通事故を多数起こしていた
・事故後も反抗的な態度で上司と面談し、反省している様子が無い
であれば、減点ポイントになりえます。
もちろん、過去の勤務成績が良ければなんでも軽い処分で許されるというわけではありません。ただ、それらを全く考慮しない懲戒処分は後に無効とされる可能性があります。
それらも充分に考慮して懲戒処分を決定していきたいですね。
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