小林よしのり氏が解説。ビル・ゲイツ「人口削減計画」という陰謀論はナゼ信じられたのか?

 

「陰謀」を「宣戦布告」するという矛盾を気にしない陰謀論者

そして問題の「人口削減計画」は、この「新世界秩序陰謀論」の中に登場する。

世界をただひとつの政府のもとに支配するには、今の世界人口はあまりにも多すぎる。資源の枯渇や食糧問題、環境問題なども考慮すれば、世界人口は10億人くらいまで削減しなければならない(削減目標の数字には諸説ある)。

そこで新世界秩序の樹立を目論む者たちは、優生思想によってエリートだけを残し、劣った者は絶滅させ、まだマシな者は奴隷として生かして労働させ、人口を調整して自分たちにとって都合のいい「ユートピア」を築こうと企むようになった。それこそが「人口削減計画」である!

……と、陰謀論者たちは信じるようになったのだ。

とはいえ「新世界秩序」は長らく、一部の陰謀論者の間にしか知られていない言葉だった。

ところが1990年、米大統領・ブッシュ(父)が湾岸戦争の前に連邦議会で『新世界秩序に向けて』と題するスピーチをしたものだから、陰謀論者たちは大騒ぎとなった。ついにアメリカ大統領が堂々と、一部のエリートによる世界統一支配の「新世界秩序」の樹立を目指す、宣戦布告をしたのだと思って色めき立ったのだ。

いくらなんでも「陰謀」を「宣戦布告」するなんて矛盾が過ぎるじゃないかと思うのだが、陰謀論者はそんなことは全く気にしない。

かくして「新世界秩序」は一躍、一般にも広く知られる言葉となり、「新世界秩序陰謀論」は陰謀論者の多くにとって特に重要なものとなったのである。

しかも「人口削減計画」は、世の中で起こる大抵の出来事をひとつのストーリーの中に回収できてしまう、実に便利な設定であった。

環境問題も、食糧問題も、戦争や紛争も、新型ウイルスやワクチン薬害も、幼児がリンゴをのどに詰まらせて死んだことまで、実は「人口削減計画」だったということにしてしまえるのだ。

そして直接的な殺人手段だけではなく、大富豪が莫大な資産を抱えていることも「人口削減計画実行のための資金調達」ということにできるし、マスメディアは「人口削減計画が気づかれないよう情報統制し、民衆を洗脳している」ということにできるし、経済格差の拡大も「人口削減計画実行のために人間を選別している」ということにできるし、その他、新たな科学技術の開発も、各国の権力者の動向や政変も、ありとあらゆるものが「人口削減計画」の陰謀の一環にしてしまえる。

世の中に見られる不可解な出来事の数々は何でもかんでも、実は陰謀のために行われている作戦だったのだ!と、即座に思えて納得できてしまうのだから、これは簡単便利で快感が得られるのだろう。

そんなわけで陰謀論者は、何かあればすぐさま「人口削減計画だ!」と言い始めるのである。

時代とともに変遷。「陰謀」を遂行している主役

さて、ここでもうひとつ問題が出てくる。

それでは、その陰謀を遂行している「主役」は誰だということになっているのだろうか?

はっきり言ってしまえば、そんなものは「誰でもいい」のだ。

現在は、陰謀の「主役」である資本家はビル・ゲイツだということになっている。

しかし以前だったら、これは「ロスチャイルド」(19世紀以降、ヨーロッパの政治経済に多大な影響を与えたユダヤ系銀行家の一族)だったり、「ロックフェラー」(19世紀から20世紀にかけ、米国の石油王が築いた大財閥とその一族)だったりしたのだ。いつの間にロスチャイルドやロックフェラーは陰謀から手を引いて、ビル・ゲイツにバトンタッチしたんだ?

要するに、その時点で注目されている大金持ちで、適度に世の中の反感を買っていて、「陰謀をやっている」と言えばなんとなく説得力がありそうな人だったら、誰だっていいのだ。どうせ証拠を出す必要なんかないのだから。

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