傲慢で間抜けなトランプとバイデンの大罪。中国に「裏庭」を実効支配された米国の落日

 

トランプの移民阻止政策とバイデンの外交無策が招いた惨状

日本では余り大きく取り上げられなかったが、昨年6月にロサンゼルスでバイデン大統領が主催して開かれたロサンゼルスでの「第9回OAS(米州機構)首脳会議」に何人もの中南米首脳が出席せず、会議そのものが前例のない大失敗に終わった。この原因は、バイデンがまさに「民主主義国vs専制主義国」のイデオロギーに従って、彼が「独裁国家」と規定するキューバ、ニカラグア、ベネズエラの3国を排除して同会議に招かない措置をとったところ、それに反発してメキシコ、グアテマラ、ホンデュラス、エルサルバドルが会議そのものをボイコット、他にボリビアとウルグアイも欠席した。

OASはその地域に存在するすべての国・地域が参加するという多国間主義の原則で成り立っていて、それは国連憲章のその原則に沿った地域機構のあり方として当然のことである。その会議に、米国が「民主主義国vs専制主義国」というイデオロギー基準を持ち込んで、この国はいい、この国はダメと分断を持ち込むことなど許されるはずがない。

冷戦時代の安全保障の常識は、予め誰かを仮想敵と定め味方だけを結集して戦争に備える「敵対的軍事同盟」であり、NATOも日米安保条約も、近頃言われる「クアッド」も、皆それである。それに対して冷戦後に息を吹き返したのはそもそも国連憲章が追求しようとして挫折させられてきた「多国間主義」であり、これは「全員参加」を根本趣旨とする。国連は世界大であるので、原則として地球上に存在するすべての国が加盟し、また例えば国連の「多国間主義」の理念を欧州で体現すべく1975年に当時の西独の主導で始まったOSCE(全欧安保・協力機構)は、西欧・北欧から旧東欧やロシアをはじめ旧ソ連邦の諸国までが加盟する。

多国間主義の枠組みは、主要なテーマが経済的な共同体の場合は利害関係国の任意参加となるが、安全保障協力の場合には当該国家の全員参加となる。

1951年に発足したOAS(米州機構)はOSCEと同様の地域安全保障に関わる多国間主義の機構だが、米国は62年キューバ危機の後に同国を除名したり(2015年に復帰)、2001年のコスタリカ総会では「加盟国を民主主義国・資本主義国のみに限定する」と言う提案を持ち出して否決されたりして、物事の本質を丸っ切り理解していない態度を示してきた。

そしてそのような右往左往に行き詰まると、米国の中南米への関心は冷めるばかりで、昨年6月のOASロサンゼルス総会の時点では、ワシントンのNPO「米州協会」の訴えによれば、ニカラグア、エルサルバドル、パナマ、ボリビア、ウルグアイ、ブラジル、チリなど中南米の13カ国に米国が大使を置いておらず、その中には有力国であるにもかかわらず何年にも渡り大使空席のまま放置されていたケースもあった。米国務省関係者によると、これは前々から始まっていた傾向だが、特にトランプ政権による移民阻止政策とバイデン政権による外交無策によってますます酷い状態に陥ったという。

この米州協会の訴えをNBCなどが大きく報道したこともあり、昨秋から今年1月頃までにかけて急遽7~8人の大使を任命したようだが、このように、中南米の多くの国に大使も送らない非礼を重ねた上に、「民主vs専制」の旧式の敵対原理を持ち込んだとあっては、主だった中南米諸国が呆れ返ってロサンゼルス総会に欠席したのも当然だったろう。

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