米中による覇権戦争が長期化する中、ブリンケン国務長官を訪中させたアメリカと、ブリンケン氏と習近平国家主席の面会の席を設けた中国。なぜ両国は今、関係改善に積極的となっているのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、米中が和解に向けて動き出したそれぞれの思惑を解説。さらにこの流れが日本にとってどう作用するかについても考察しています。
二正面作戦の回避と金儲け。なぜ米中は関係改善に動き出したか
皆さんご存知だと思いますが、ブリンケン国務長官が、訪中しました。アメリカ国務長官の訪中は、5年ぶり。バイデン政権の閣僚の訪中は、はじめてだそうです。この訪問についてバイデンは「正しい道を歩んでいる」と発言しました。ブリンケン、バイデンの言動からわかるのは、「アメリカは、中国との和解を望んでいる」ということです。
では、中国側はどうでしょうか?ブリンケンは6月18日、秦剛外相と7時間半も会談。6月19日は、王毅政治局員と3時間会談しました。6月19日には、習近平とも面会しています。秦剛、王毅はともかく、習近平自身が面会する。中国側も、やはり米中関係を改善させたいのでしょう。なぜ?
「親中反日」だったバイデンが強化した中国包囲網
2018年10月、ペンス副大統領の「反中演説」から世界は「米中覇権戦争の時代」に突入しました。2021年にバイデンが大統領になると、懸念が広がります。というのも、バイデンはかつて「親中反日」だったからです。しかし、昔からの読者さんはご存知のように、私は「バイデン政権になっても米中覇権戦争は終わらない。日米関係は、トランプ時代よりもむしろよくなる」と主張しつづけていました。たとえば↓。
● 「親中派バイデンでも米中覇権戦争は続く…」中国崩壊のはじまり?知られざるアメリカの大戦略
※ 公開日は2021年4月2日ですが、収録日はバイデンが大統領に就任する前の2020年11月半ばです
で、実際何が起こったのか?バイデンは、米中覇権戦争をつづけました。具体的には、
- クアッド(日本、アメリカ、インド、オーストラリアの枠組み)を強化した
- AUKUS(アメリカ、イギリス、オーストラリア同盟)を立ち上げた(2021年9月)
- 民主主義サミット(世界109の国と2地域が参加)を立ち上げた(2021年12月)
- IPEF(インド太平洋経済枠組み)を立ち上げた(2022年5月)
これらはいずれも、「中国包囲網を強化する動き」です。そして、誰もが、「バイデンは、米中覇権戦争をつづけているよな~」と認めざるを得なくなった。では、なぜ彼はここに来て、中国との和解に動いているのでしょうか?
何としてでも「二正面作戦」を回避したいアメリカ
大きな理由は、「ウクライナ戦争」です。
一つは、「二正面作戦」を回避したい。アメリカは現在、欧州方面で、(直接戦闘はしないものの)ロシアと戦っています。もし今中国が台湾に侵攻すれば、アメリカは、「西でロシアと、東で中国と戦う」ことになり、本当に困るでしょう。さらに、北朝鮮が韓国に攻め込めば、「三正面作戦」を強いられることになります。中国が動かないよう、ある程度和解しておく必要がある。
二つ目は、中国がロシアに武器弾薬を供与しないようにすることです。現在ウクライナの反転攻勢がはじまっています。もし中国がロシアに武器弾薬を供給すれば、ウクライナが勝つ可能性は大いに減るでしょう。だから、アメリカは中国に、「武器弾薬をロシアに送るなよ!」と圧力をかける。
すると、中国は、当然「その見返りは?」となるでしょう。アメリカは、「西側陣営の国々と和解することで、経済関係が正常化し、儲けることができる」と飴も与えます。だから、ショルツさんやマクロンさんが訪中し、金儲けの話をするのです。「世界GDP2%のロシアと組むより、世界GDP50%の欧米日と金儲けをした方が儲かりますよ」と。








