バイデン政権がこれほどインドを甘やかす目的は言うまでもなく中国の封じ込めだ。アメリカのテレビ番組に出演した専門家(アメリカ平和研究所のダニエル・マーキー氏)は、「中国と対抗するという意味においてインドはとても重要な役割が演じられる。なぜなら中国の海上交通路の多くが通るインド洋を独占する位置にあるからだ。アメリカが中国を封じ込める戦略をとる上で、これはとても有用」と指摘する。
インドには将来の市場としての期待があることやアメリカのIT産業を支える頭脳労働者の存在なども「モテキ」の理由として挙げられる。しかし何といっても「敵の敵は味方」理論が優先されているのだ。
そのことはモディ訪米を大きく伝えたアメリカのニュース番組(米テレビPBS『News hour』6月23日)のキャスターが、モディ政権を紹介したVTRを番組内で流した後に、「これがほかの国であれば民主主義の基準に達していないと批判されるところでしょう」とコメントしたことからも理解できる。
いま世界のメディアはインドを「最大の民主主義国」と表現する。しかしアメリカ国内にもこれを疑問視する声があり、なかで懸念されるのがモディ率いる与党・インド人民党(BJP)がヒンドゥー教の規範を統治原理とするヒンズー至上主義である点だ。
2014年にモディ政権が誕生した後ヒンドゥー教徒以外の宗教信者に厳しい政策を取ってきたことは周知の事実だ。実際にイスラム教徒に対する暴力やヘイトクライムが急増したという指摘は少なくない。前出・マーキーは、「モディ首相の下でインドは着実に民主主義ではなくなってきている」と断じた上で付言する。
「インドにはイスラム教徒が2億人以上もいてインド社会でも大きな存在です。その危険性についてオバマ元大統領もメディアのインタビューで言及し、『このまま分断が進みインドが統一性を失えば、アメリカのパートナーとしての影響力と能力も削がれてしまう』と指摘しています。インドは巨大な国ですから、そこが不安定だと世界の安定性にも影響します。だからインドを民主主義の視点から真剣に糺すことは重要なのです」
だが、アメリカはインドを糺すどころかむしろ甘やかしていて、この点では明らかにダブルスタンダードだ。「ご都合主義」とのそしりも免れまい。バイデン政権が重視する人権という点においてもインドには懸念材料が多い──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年6月25日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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