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マイナンバー保険証で支持率下落は不可避。焦る岸田が目論む“トカゲの尻尾切り” 

マイナカード問題を巡り、来秋の現行保険証廃止を見直さない方針を改めて強調した岸田政権。マイナカードへの国民の不安は「高止まり」しているのが現状ですが、岸田首相はこの局面をどう切り抜ける算段を立てているのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、マイナカードと保険証の一体化が現段階では無理筋である理由を解説。さらに岸田首相が描く甘すぎる今後のシナリオを紹介しています。

健康保険証を“人質”に。マイナカード普及に焦る岸田の「次の目論見」

マイナンバーカードをめぐるトラブルが深刻化し、岸田政権を揺るがしている。

来年秋には今の健康保険証を廃止し、信頼感を失ったマイナンバーカードに一体化させるというから、なおさらコトは重大だ。

当メルマガでは今年4月13日号で、「マイナ保険証のリスクを心配する」と題する記事を掲載したが、まさかこんなに早く問題が顕在化するとは思ってもみなかった。

【関連】個人情報の流出は必至か。不安しかない「マイナ保険証」をゴリ押しする政府の無責任

いまのところ、トラブルのほとんどは入力ミスなど人為的なもので、システムに問題はないとされている。しかし、その見方は甘いような気がする。入力ミスはあらかじめ想定されたもので、それを前提にした安全システムを組み込んでいないこと自体、デジタル社会では致命的だ。

技術的に未熟なシロモノを全国民に保有させるために、健康保険証を廃止すると言い出した河野太郎デジタル大臣は、トラブル続きを責められて、苦し紛れの「逃げ口上」を考えついた。

6月25日に新潟県内で講演をしたさい、河野大臣はこう言い放ったという。

「マイナンバー制度は民主党政権が作った制度。作った時の人が『一回ちょっと立ち止まれ』みたいなことをいうと『お前が始めたんだろ』と言い返したくもなる」

おかしなことを言うものだ。確かに、マイナンバー制度の法案は2012年、民主党政権下の国会に法案が提出され、同年11月の衆院解散で廃案となったが、それを翌13年の国会に再度提出して成立させたのも、15年にマイナンバーカードを導入したのも、当時の安倍政権だった。

しかも、いま問題になっているのはマイナンバーカードであって、マイナンバー制度ではない。そもそも、マイナンバーとマイナンバーカード(マイナカード)は別物だ。

マイナンバーは、個人を番号で管理することにより、あらゆる収入を行政が把握するのが目的で、利用範囲を社会保障、税、災害対策に限定している。それ以外の利用は違法だ。

一方、マイナンバーカードは、氏名・住所・生年月日、電子証明書を記録したICチップを搭載し、そのデータの読み取りと暗証番号の入力により、本人であることを証明できる。こちらは利用制限はなく、コンビニで住民票の写しや印鑑登録証明書などを取得でき、2021年10月からは、健康保険証としての利用が始まった。マイナポータルというサイトにアクセスすれば、公金受取口座の登録・変更、年金に関する情報確認や、ごく一部ながら行政手続きの電子申請をすることが可能だ。

つまり、マイナンバーカードは電子的な身分証明書である。それに様々な個人情報を紐付けることによって、デジタル行政を進めようとしているのだろう。

だから、主としてその紐付けにかかわるトラブルをめぐる話のなかで、河野大臣が、民主党政権時代に提案されたマイナンバー制度自体に問題があるかのごとき発言をしたというのは実に意外だった。最初は、マイナンバー制度とマイナンバーカードを混同しているのだろうか、と疑った。

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岸田政権の自滅につながりかねない「マイナ保険証」

ところが、河野大臣は違いをちゃんとわかっていた。7月2日のNHK番組で、こう語ったのだ。

「マイナンバー制度とマイナンバーカードは、同じ名前をつけたものだから、かなり世の中で混乱してしまっている」

「次にカードを更新する時には、マイナンバーカードという名前をやめた方がいいんじゃないかと、私は個人的に思っている」

マイナンバー制度とマイナンバーカードが別物であることを河野大臣もさすがに認識していた。にもかかわらず、わざわざ「マイナンバー制度は民主党政権が作った制度」と関係のない事実を持ち出すのは、かなりタチが悪いと言わざるを得ない。

さて、河野大臣のこの取り乱すさまを見て、つくづく思うのは、デジタル社会を進めるには、政府に対する国民の信頼が欠かせないということである。個人情報が筒抜けになることへの不安を払拭できないかぎり、マイナンバーカードを安心して使う気にはなれない。

北欧の小さな国エストニアがデジタル先進国になったのは、情報を包み隠さず国民に知らせる政府に信頼が寄せられているからだ。政府が作成した文書はWEB上で公開するよう法律で定められており、機密文書については、その理由を政府が開示しなければならない。

繰り返すようだが、国民の個人情報を収集するには、国の情報公開がきちんと行われる必要がある。そうでなくては、国民は不安で仕方がない。

国民に正確な情報を伝えないまま、無理やり、健康保険証を“人質”にとるやり方でカードの普及をはかろうとしているのが岸田政権であり、拙速なやり方で進める張本人が河野デジタル大臣である。「一回ちょっと立ち止まれ」と河野大臣に意見したのが誰かは知らないが、あたりまえのことだろう。

なにしろ、マイナ保険証のデータに他人の情報が登録されていたとか、公金受取口座に他人の口座が登録されていたとか、次から次へとトラブルが発覚しているのである。自治体や健康保険組合の職員の誤入力が原因らしく、岸田首相はマイナポータルで見ることができる29項目すべてのデータを総点検するよう指示をしているというが、それでこと足りるとは思えない。

ブロードバンドインフラが高い水準に達している日本だが、個々のデジタル技術には疑問がある。たとえば、マイナンバーカードを使った証明書交付サービスで別人の証明書が交付されるトラブル。これは富士通のシステムに何らかの欠陥があるからだろう。

デジタル社会に移行するには、異なる省庁が連携し、自治体や民間企業との協力を通じて、一元的なデジタルプラットフォームを構築する必要がある。日本では、各省がバラバラにIT投資、施策を進めてきたため、システムを統一するのが難しく、手続きの煩雑さ、情報の非効率性を生んでいる。

つまるところ、個人情報を守る技術が万全ではないにもかかわらず、性急にマイナカードの普及をめざしたために、トラブルが続出し、マイナカードへの不信感が膨らんでいるのが現状といえる。マイナカードを返納する動きも出ており、このまま保険証との一本化を強引に進めれば、すでに支持率が下降している岸田政権の自滅につながりかねない。

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岸田首相が描く甘すぎるシナリオの内容

永田町界隈では、再び衆院解散への警戒感が高まっている。自民党の萩生田光一政調会長や遠藤利明総務会長が内閣改造・党役員人事の時期について「8月か9月」と言っていることもあり、人事で政権のイメージを一新したうえで、9月下旬にも衆院を解散するのではないかという見方が強くなっているのだ。

内閣改造のポイントとなるのは、河野大臣の処遇だ。河野氏をこの問題の“A級戦犯”に仕立て上げ、岸田首相は暴走を食いとめる役回りを演じるために、内閣改造で河野氏をデジタル大臣の座から引きずり下ろし、健康保険証の廃止をとりやめる。そうすれば、来秋の自民党総裁選でライバルになるかもしれない河野氏にダメージを与え、岸田内閣支持率は好転するのではないか。そんな甘いシナリオがまことしやかに囁かれている。

だが、霞が関ですこぶる評判が悪い河野氏でも、国民的人気はなぜか根強い。岸田首相が河野潰しのチャンスととらえても不思議はないが、かりにそうだとしても筋書き通りにいくかどうか。下手をすれば、責任逃れの姿勢が反発を呼んで、かえって支持率が落ち、とても9月解散どころではなくなるかもしれない。

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image by: umaruchan4678 / Shutterstock.com

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