逮捕すべき犯罪者と女性皇族を同列に扱う不敬
その上、逮捕すべき犯罪者と同じ屁理屈を、女性皇族が言い始めたらどうするんだなんて、どこまで女性皇族に対して失礼なことを言っているのだろう。
皇族方がそんなことをなさるわけがない。「やるかもしれないじゃないか」と言われても、私は、日頃から拝見してきた皇族方の誠実なお姿をすっかり信頼しているので、「そんなことなさるわけがないよ」としか思わない。竹田は、皇室を尊敬も敬愛もしていないのでは?
それに、「22世紀の女性皇族」と言うが、現世紀の時点で、すでに皇室は消滅しかかっている状況だ。100年以上も先の空想を語るのは、論点をボカして先送りしてやろうという魂胆しか感じられない。ひたすら女性皇族を下に置きたいという男尊女卑の感情がにじみ出ているヒドイ言い草だった。
竹田が言うような「LGBT法を利用して、女風呂に、女と偽った男が入ってくるぞ」という脅しはネット上でよく見聞きしたが、もしそんな事件が起きたなら、事件を起こした男が問題なのであって、本来は、個別の犯罪として対処する話であり、LGBTに関する理解増進を阻止することとは関係がない。
これまでも、工夫に工夫を重ねて女湯をのぞいたり、女装して女湯に忍び込んだりして、逮捕されてきたバカな男たちはいくらでもいたのだから、同じ刑事罰を受けるだけだろう。
警官は、異常な挙動や犯罪の疑いのある人物に対しては、任意で職務質問したり、任意で同行を求めたりすることができる。任意だから断れるのだが、20代の頃、何もしていないのにたびたび引き留められては無実を証明していた知人男性が、警官に「なぜ俺はいつも疑われるのか」と聞いたところ、
- 腕にタトゥーがある
- ヒゲがぼうぼう
- ロックのTシャツを着ている
- 腕時計をしていない(スマホのない当時、社会性のなさと見なされた)
この4つが揃うと、違法薬物所持を疑って声をかけていると教わったらしい。
ほかにも目つきや挙動などいろいろ判断材料があるはずで、ジェンダーの問題に関わらず、状況や外見から判断して疑いをかけることは、警察の職務の1つなのだ。
もしも「疑ったら差別」と騒ぐような言論が出てきたら、行き過ぎたポリコレになると思うが、警察の法的な権限まで縮小することはできないのではないかと思う。
なにより、「性的少数者であるトランスジェンダーへの理解」と「女湯に侵入する犯罪者への対策」とは論点がまったく違う。そこがごちゃ混ぜになっていること自体が、性的少数者に対する理解の低さ、差別心の現れでもあるだろう。
その差別心がさらに劣化すると、井上正康の「家族制度の崩壊につながる。結婚する人がいなくなる。性的倒錯集団をつくるという目的もあるらしい」、馬渕睦夫の「LGBTはディープステートが考えている人口削減策の一環」などの発言につながるわけだ。
ところが、こういった「女湯に侵入する男」をわざわざ危惧してみせる話が、竹田をはじめとする自称保守派のなかでけたたましく叫ばれ、政治家の中でも問題視された。
特に自民党の議員は、統一協会の影響を受けて、LGBTを「病気」と言う八木秀次の講和を聞くなどしてきたから、完全に間違った理解や、差別したい願望がへばりついている。
そのため、与野党で協議が行われ、条文に「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意するものとする」という文言が加えられることになった。法案はそのまま可決されたわけだが、この文言に、LGBT当事者団体や法律家たちが猛反発している。
この文言は、LGBT法を、「全ての国民」という多数者の安心を条件にして、圧倒的少数者の人権に制約をかける法律として解釈できるからだ。
差別をなくすための活動を行いたくても、偏見に満ちた周辺住民が「不安だ」と訴えれば制約を課すことができるととれるし、条文そのものに、LGBT当事者たちが国民の安心を脅かす存在であるかのような印象を与える節もある。
この記事の著者・小林よしのりさんのメルマガ









