ホンマでっか池田教授が老いて知る「老人」と「若者」の大きな違い

 

足裏に違和感が出る数年前、柵を乗り越えようとして膝を痛め、痛くて歩くのに不自由したことがあって、この時も整形外科に行ってレントゲンを撮ってもらった。変形性膝関節症と診断され、しばらく通院するように言われたが、レントゲン写真を見せてもらって、大したことないと自分で判断して、それきり、整形外科には行っていない。

座って仕事をしている時、太腿の間にゴムのボールを挟んで、狭めたり緩めたりという運動をしているうちに治ってしまった。それでも、階段を下りたりする時に稀に痛みが出て、飛んでいる虫を走って追いかけるのが怖くなった。いきなり膝がガクってきたらどうしようと思ってしまうのである。

駅の通路を並んで歩いていた若い人が、発車のベルが鳴った途端に、走って階段を上がったり、下りたりするのを見ると、羨ましいけれども、まねをする元気はない。走れば走れるような気がするが、バランスが悪くなったので、転んだらあの世行きかも、と思うととても走る勇気はない。若者は走ることを意識せずに反射的に走っているに違いない。若い時の自分がそうだったからよく分かる。

私がまだ40代の頃、坂の上にあった自宅から、坂道を小走りに降りて駅に行く途中で、白い小さな犬を連れたおばあさんによく会った。おばあさんは私を見ると「行ってらっしゃい。若い人はいいね、元気で」と声をかけてくれたが、「別に元気じゃねえよ。普通だよ」と思っていた。今、若い人が階段を駆け上がっていくのを見ると、「若い人はいいね、元気で」と言ったおばあさんの気持ちがよく分かる。当の若者は「別に元気じゃねえよ。遅刻しそうなだけだよ」と思っていることだろう。

若い時は、歩くのも走るのも、ほぼ無意識的な行動だった。例えば、胃が元気な時は、胃の存在は意識されない。胃の具合が悪くなって、初めて胃の存在が意識に上る。足の具合が悪くなって初めて、歩く時に足の存在が意識に上る。でも、寝ている時や、座っている時はそれほど気にならないのは、病はまだ膏肓には入っていないのだろう。

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