作家の高田宏は、拙著を贈呈するといつも律義に礼状を下さったが、ある時、受け取った手紙には、「先日妻と二人で北海道観光に出かけ、そのついでに札幌のYOSAKOIソーランを見物。若い男女の真剣そのものの街頭おどりに感動し、胸が熱くなりました。若い時(中年の時にも)感じなかった疲労感をかかえて生きております。なるほどこれが老いだな、諒解といったところです」と書かれていた。
日付を見ると2006・6・26とある。73歳の時である。9年後の2015年に83歳で肺がんで亡くなられたので、すでに肺がんが発症していたのかも知れないが、中年まで感じなかった疲れを感じるというのはよく分かる。若い人の行動を見て、自分も若ければあのくらいのことは苦も無く出来るのだけどな、と思っていたのだろう。ちなみに高田宏はスキーの名手である。
ついでに言えば、感動し易くなるのは老いの兆候なのだ。私的には、精神的な若さを保つコツはなるべく感動しないことだと思っている。怒りは老いを少し先延ばしにして、感動は老いを加速する。(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』2023年7月14日号より一部抜粋)
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