2.インドネシア高速鉄道で日本は裏切られたのか?
具体的なプロジェクトの事例として、インドネシアの高速鉄道計画があります。
本来は、日本が受注する案件で、2008年から日本の技術者が現地調査に協力し、2014年には国際協力機構が事業化に着手しました。
そこに、一帯一路構想の中国が登場します。「中国が費用を全額融資し、インドネシアには直接的な財政負担はかけない」と約束し、日本の計画を丸ごとパクッた提案をしてきたそうです。「同じ内容で、費用も安く、工期も短い。だから、中国に発注してください」という、いかにも中国らしい提案です。
インドネシア政府は、日本から中国に乗り換えました。結局、工期は大幅な延期となり、工事費も増え続けました。
この事件は、「日本を裏切ったインドネシアは大損し、日本に泣きついてきた」と解説されています。しかし、裏切るも何も、インドネシアは中国と盃を交わした間柄であり、日本は単なる工事の請け負い業者に過ぎません。どんなに後出しジャンケンでも、親分のいうことを聞くのが子分です。
ですから、インドネシアにとって、中国に発注したのは、親分への忠義を示したということです。裏切るというほど、日本とは深い関係ではなかったのです。
3.トップダウンとボトムアップの齟齬
多くの民主主義国家は、リーダーを選挙で選びます。決まったリーダーの命令に国民が従う、トップダウンの国です。
日本も民主主義国家で、総理大臣は与党の選挙で選ばれます。しかし、必ずしも総理大臣がリーダーであるとは限りません。与党の長老が実質的な権限を持っている場合もありますし、特定の分野では、官僚トップの事務次官が実質的リーダーだったりします。
日本のリーダーは、部下の意見を吸い上げ、部下の立場を尊重します。決して、独裁者のように独善的な行動はしません。そんなことをすれば、部下の信用を失い、リーダーの座から追われることが分かっているからです。
日本ではトップ同士で商談を行うことは珍しく、担当者レベルからスタートします。トップ同士で商談して、下に落とした方が簡単ですが、それをすると、担当者のやる気がなくなり、結果的に、組織力が弱体化します。
日本政府や日本企業にビジョンがないのは、ボトムアップ型組織だからです。個々の担当者の役割を重視し、その立場を尊重します。
当然ですが、高速鉄道の担当者は、独立採算のビジネス案件として扱います。道路や通信のインフラ整備については関知しません
しかし、外国政府の本音は、包括的に面倒を見て欲しいのです。鉄道が終われば、道路も通信もエネルギーも整備が必要です。できれば、大統領個人の選挙にも協力してほしい。
ですから、本当は日本の親分と盃を交わしたい。その上で、鉄道や道路や通信やエネルギー等の具体的な案件について協議したいと考えています。そういう意味では、コンプライアンス厳守の日本企業は真面目過ぎて、物足りないと感じているでしょう。
なぜ、中国のように技術レベルも低く、問題の多い国が、海外案件で日本を出し抜くのか。その要因は、技術的なことではなく、考え方の違いにあるのだと思います。
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