ネット上では大炎上状態となっているにも関わらず、大手メディアがほとんど伝えることがない、木原誠二官房副長官夫人の元夫不審死事件。マスコミは7月20日に行われた遺族の記者会見についても「無視」を決め込んでいます。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、会見で元夫の父親が語った、テレビや主要紙が報じない内容を誌面で紹介。さらにこの先、木原官房副長官の身に起きかねない事態を記しています。
【関連】捜査も会見も突然中止。木原誠二官房副長官の妻「元夫不審死事件」をめぐる“忖度とタレ込み”の裏
主要メディアは完全無視。不審死した木原官房副長官夫人の元夫遺族が会見で語ったこと
「テレビ局や新聞社の皆さまには、この事件に関心を持って広く報じていただくようお願いします」
木原誠二官房副長官の妻の元夫、安田種雄さんの不審死事件で、安田さんの父と二人の姉が7月20日に記者会見を開き、涙ながらに訴えた。
もともと12日に予定されていたこの会見。直前になってとりやめになったため、警察から圧力があったのかと憶測を呼んだが、どうやら別の事情があったようだ。
警視庁大塚署長あてに、種雄さんの両親と二人の姉の連名で、「捜査の続行」を訴える上申書を出す決心をし、その提出日が17日になったこともあるのだろう。会見で話す内容が掲載された週刊文春7月27日号の発売日に合わせたのかもしれない。
疑惑の本人ではないとはいえ、岸田首相の最側近にかかわる事件だけに、メディア各社とも無関心ではいられない。だが、その注目度の高さとは裏腹に、会見後の報道は寂しいかぎりだった。取り上げるテレビ番組は一つもなく、読売、毎日など多くの新聞は完全に無視を決め込んだ。
私たちは種雄の死の真相を知るため、捜査を続行していただきますことを、心から望んでおります(週刊文春7月27日号より)
大塚署に提出した上申書の一部である。警察も一度は他殺ではないかと疑って再捜査をはじめた。だが、木原氏の自宅を家宅捜索までして、その後に捜査は打ち切られた。どうしても種雄さんが自殺したとは思えない家族が捜査の継続を求めているのだ。
この会見を聞くまで、文春の記事に書かれた安田さんの父の話に疑問点がないわけではなかった。夜中の3時に、貸していた自家用車を返してもらうため種雄さん宅に行き、居間で血まみれになった種雄さんを見つけたという。いくら息子の家とはいえ、夜中の3時に実行するような用向きだろうか、という点だ。
しかし、会見における父親の話は思いのほか整然としていて、またたく間に疑問は氷解した。
「息子と嫁の夫婦関係が悪化し離婚話が出ていた2006年4月9日、息子に電話しても出ない。いつもはすぐ折り返しの電話があるのに、それもない。気になって、いつもより2時間早く目がさめ、夜中の3時ごろ、息子の家に行った。玄関の鍵がかかっていなかったので中に入ると、そこに変わり果てた息子の姿があった」
それなら夜昼は関係ない。玄関ドアに鍵がかかっていなくて、家の中は真っ暗だった。何かに躓いて、灯りをつけると、種雄さんが居間で目を見開いたまま失血死しており、天井に血が飛び散っていた。
右のふくらはぎの斜め30センチくらい前のところに体に刃をむけてきちんとナイフが置かれていた。「見た瞬間、誰かが偽装したんじゃないか」と疑ったという。
この記事の著者・新恭さんのメルマガ
「殺せるなら殺してみろと夫に刃物を握らされたので切ってしまった」
当時、種雄さんと妻のX子さん(現・木原官房副長官夫人)は夫婦仲が悪く、X子さんは子供を連れて家出した。種雄さんは2か月近く探し回ったあげく、当時X子さんと親密だったY氏の地元にいることを突きとめ、父親から借りた車でX子さんと子供たちを連れ戻したが、その直後に謎の死を遂げた。
のちに父親が捜査員から聞いた話では、狭い廊下をへだてた隣の寝室にX子さんと子供たちがいたというが、種雄さん1人しかいないと父親は思い込んでいた。
父親は家の外に出て電柱の住居表示を確認し110番通報した。家に戻る途中、風呂敷に包んだ長い棒のような物を背中に抱え、ふらつきながら歩いてきた男とすれ違った。後を追いかけたが、見失った。警察が到着し、種雄さん宅のドアを開けた時、玄関に置いてあった靴の数が減っているような気がしたという。
おそらく父親は、その男が種雄さん宅から出てきたのではないかと疑っているに違いない。父親が居間で種雄さんを見つけたとき、家の中にはX子さんと子供2人だけではなく、その男もいて、父親が外に出たわずかな隙をついて抜け出したのではないかと。
その男が誰であるかはわからない。ただ、週刊文春7月13日号の記事によると、X子さんと親密な関係だったY氏が事件当日、自家用車で種雄さん宅方面に向かっていたことがNシステムの捜査で判明し、警察が再捜査で事情聴取した結果、Y氏から次のような供述を得ている。
Y氏が安田さん宅に行くと、種雄さんが血まみれで倒れており、X子さんは「夫婦げんかになって、殺せるなら殺してみろと夫に刃物を握らされたので切ってしまった」とワケを話した。
種雄さんの体内から致死量の覚せい剤が検出されたこともあり、当初は自殺とみていた警視庁はY氏のこの供述により他殺の可能性が高まったとして18年10月、木原誠二氏の自宅を家宅捜索し、重要参考人としてX子さんから事情聴取した経緯がある。
父親は「種雄の傷は、のど元から肺ににまで達していた。自分をそんなふうに刺して、足元にナイフをきちんと置いてから死ぬなどということがありうるだろうか」と言い、再捜査を途中で打ち切って、当初判断の通り自殺として片づけた警察に疑問を投げかける。
種雄さんはX子さんと子供たちを自宅に連れ帰り、離婚届に判を押した。それから間もなく、亡くなった。父が駆けつけた当時、電灯は消され、玄関ドアの鍵はかかっていなかった。自殺なら、室内を真っ暗にするだろうか。真夜中に鍵をしていないのは誰かを迎え入れるためではないのか。数々の謎がある。
X子さんとは事件後、一度も顔を合わせたことがない。種雄さんの遺体をX子さんは引き取らず、電話をかけてきただけだった。その時、「葬式に孫連れてきて線香一本でも」と種雄さんの母が言うと、電話を切られたという。
X子さんは、種雄さんと死別した後、銀座の高級クラブで働いていたが08年、財務官僚から衆議院議員に転身して間もない木原氏と出会い、14年に女児を出産し、結婚した。
2018年春になって、警察が再捜査をはじめた。同年10月、木原氏の自宅を家宅捜索したが、X子さんはY氏に連絡したことを否定し「事件には関与していません」「記憶にありません」「わかりません」と繰り返した。その後まもなく、警視庁は捜査を打ち切った。
この記事の著者・新恭さんのメルマガ
朝日新聞の第三社会面にひっそりと掲載された記事
種雄さんの姉たちは言う。「弟が死んだ当時、なかなか捜査してもらえず、諦めるしかないのかと、心にしまったまま生きてきた。警察が再捜査してくれるとは夢にも思わなかったが、1年足らずで捜査が終了してしまった」「弟は28歳で時が止まった。なぜ死ななければならなかったのか、真実が知りたいです」
木原氏は文春の記事に対し「事実無根の内容で、人権侵害だ」として、文藝春秋社などを刑事告発する意向をちらつかせているが、姉たちは「事実無根ではありません。訴えるのではなく説明してほしい」と話した。
安田種雄さんの遺族の記者会見は司法記者クラブで行われた。クラブ会員である主要メディアの記者からの質問は、幹事社の共同通信くらいのもので、ほとんどフリーランスか、ネットメディアからの質問だった。
記者会見によって、これまで文春報道を見て見ぬふりしてきた大手メディアや地方紙などがどう反応するかが注目されたのだが、やはり権力のど真ん中にいる現職の官房副長官がらみの案件だけに慎重な姿勢を崩せないようだ。
この会見を記事にした大手メディアは共同通信だけで、それもベタ記事ていどの中身だ。その配信を受けて、記事をそのまま掲載したのは全国紙では産経新聞のみ。地方紙では東京新聞など30紙ほどが掲載したが、不掲載の地方紙も15紙以上あった。共同の記事全文は以下の通りだ。
2006年に東京都文京区の自宅で遺体が発見された男性=当時(28)=の遺族が20日、都内で記者会見し、自殺と扱われたが不審点があるとして警視庁に17日、再捜査を求める上申書を出したと明らかにした。
週刊文春が、男性は木原誠二官房副長官の妻の元夫で、妻にも事情を聴いていたなどと報じていた。木原氏は代理人弁護士を通じ「週刊文春の私と私の家族に関連した記事は事実無根」とするコメントを出している。
会見には、死亡した安田種雄さんの父親(70)と姉2人が出席し「真実が知りたい」と涙ながらに訴えた。遺族側によると、18年に警視庁が再捜査に着手したが、その後に事実上終了したという。
これでは、読んだとしても、ポイントがよくわからない。このニュースの本質は、未解決事件を警視庁が再捜査し、他殺の疑いが出てきたが、なぜか途中で打ち切った。そこに、木原氏が自民党の有力国会議員であることが関係しているのかどうかである。では、なぜ載せる社があるかといえば、この先、世論に押されて警察が捜査をやり直した場合への備えということなのだろう。
朝日新聞は、安田さん遺族の会見を報じなかったが、別の方法でこの事件を取り上げた。25日の第三社会面に、ひっそりと掲載されたこの記事。
木原誠二官房副長官の妻の代理人弁護士は、週刊文春の報道で人権侵害が起こる可能性があるとして、発行元の文藝春秋を相手に、日本弁護士連合会に人権救済を申し立てたことを明らかにした。申し立ては21日付。(後略)
この文章に続き、「(週刊文春は)木原官房副長官の妻である女性が、警視庁に任意で事情聴取されていたなどと報じた」と、ごく簡単に事実関係を記している。これも、警察の姿勢を忖度しつつ、再捜査にもそなえ、既報の実績をつくったものだろう。
この記事の著者・新恭さんのメルマガ
岸田首相が内閣改造で木原氏を交代させるという見方も
このところ、岸田政権の支持率は下がり続けている。直近の世論調査を見ると、毎日新聞で前月調査より5ポイント低い28%、政権寄りの読売新聞ですら前月より6ポイント下落し、内閣発足以降最低の35%となった。
主として、マイナンバーカードをめぐる問題が要因とみられているが、木原官房副長官に対する文春砲の影響もネットなどを通じジワジワと広がっているのかもしれない。
警視庁は事件性が認められないとして、安田さんの遺族の要望に応じないかまえだが、この先、報道の展開、世論の動向しだいでは、再捜査を余儀なくされる可能性もある。そうなると、主要メディアが一斉に報道し、岸田政権は壊滅的な打撃を受けるだろう。
そんな事態を避けるため、岸田首相は8月か9月に予定される内閣改造で、木原氏を交代させるという見方もある。しかし、岸田首相にとって、官邸を回していくのに誰よりも頼りになる存在を、やすやすと切れないのも現実だ。
安田さんの父や姉たちが記者会見にのぞんでいた20日午後、岸田首相は、菅義偉前首相の国会事務所を訪ねて、約40分間、面談した。菅氏は木原氏の妻に対する2018年の捜査情報を握っているといわれる。21年9月に菅氏が首相退陣を決意した時のいきさつから「犬猿の仲」ともいわれる二人の間で何が話し合われたのか。
そういえば、自民党総裁選への出馬表明で、岸田氏は党役員の若返りという争点を示して「二階切り」を印象づけ、菅首相の動揺を誘った。岸田氏らしからぬ思い切った計略を献策したのは、総裁選選対事務局長の木原氏ではなかっただろうか。その人が何の因果か、妻の疑惑で岸田政権のアキレス腱になっている。世の中、摩訶不思議というほかない。
この記事の著者・新恭さんのメルマガ
image by: 木原誠二 - Home | Facebook